VRLの世界

差出人:柊周 <amane_hiiragi211@xxx.jp>

件名:21世紀試験の結果とVRL補足の件

宛先:21世紀の同朋


 やあ同朋、久しぶり!

 ちょっと間が空いてしまったね。


 前回のメールで宣言したとおり、僕は21世紀試験を受けてきたよ。

 もったいぶらずに結果を伝えよう。


 僕はこの試験に合格した。

 合格者は僕を含めて4人。

 そう、たったの4人だ。


 21世紀試験は後にも先にも一度きり、というアナウンスがされている。

 合格者が4人ということは、つまりそれ以外の人は21世紀を体験できない、ということだ。

 試験の難易度が高かったのか、と聞かれると回答に苦しむ。


 設問はこれだ。 


【21世紀のVRLライフツアーに、記憶を保持して臨めるとしたら何をしたいか述べよ】


 他に質問はない。この一問だけだ。 

 笑うしかないだろう。


 この質問の意味を理解するには、VRLのシステムについて多少知識が必要だ。

 しかし詳しく説明するとなると日が暮れてしまうから要点を箇条書きにする。

 ここですべて覚える必要はないし、無理だと思う。


 これから僕は数えきれないほどのVRLを体験するし、その体験レポートを都度報告することになるだろう。

 未来のシステムについて長々と語られるより、体験を通した物語を聞く方が楽しいはずだ。

 だから以下に記すことは流し読みで構わない。

 後々分からないことが出てきたらこのメールに戻って参照して欲しい。


【VRLの特徴とその魅力】

・VRLをプレイするには各時代ごとに用意されているシナリオ試験に合格しなければならない。

・VRLライフツアーへ旅立つ前に『初期設定』を行う。

・『初期設定』では誕生年と場所、身分や境遇などのパラメーターを配分することができる。歴史上の人物に生まれ変わることはできないが、王族や神職者といった身分に関しては選択が可能だ。

・VRLをプレイするには『インフィニット・ディメンション・エアポート(∞DA)』、通称『VRL空港』へ行く。

・プレイヤーは空港内のディパーチャールームで身体を極素粒子に変換され、選択したシナリオの世界で再構築される。ちなみにこれは脳内におけるデータ転送ではない。極素粒子変換はAIが『9次元超ひも理論』と『ダークマター』の解明に成功したことで実現に至った、と推測されている。

・転送先の自分に未来の記憶はない。

・VRLのシナリオプレイにかかる時間はおよそ2時間。つまり2時間で人生ひとつ分。

・VRLで経験したことはログとして一時保管され、VRLライフツアー終了後、プレイヤーの脳へ転写されて初めて自分の記憶となる。

・VRLには独自のスコアがあり、それによって『クリア』と『バッドエンド』が決まる。ツアー終了後にこのスコアは算出され、規定値を超えると『クリア』、下回ると『バッドエンド』となる。

・『バッドエンド』を迎えた場合、ログは転写されない。

・『バッドエンド』は選択したシナリオにおいて、何かしらのアクシデントに見舞われた場合に起こるとされているが、その理由は定かでない。一説では『自死』ではないかと囁かれているが、記憶の転写がなされないためあくまで推論の域を出ない。

・VRLには『通常モード』と『回想モード』がある。

・『通常モード』は一般的な通常プレイ、つまりVRLライフツアーで、あるひとりの人生を経験すること。

・『回想モード』は同じシナリオを10回繰り返すと選択可能になる特殊な世界だ。

・『回想モード』は『通常モード』の結末が『クリア』でも『バッドエンド』でも合計10回以上のプレイ回数で選択可能となる。

・『回想モード』は記憶を保持して該当シナリオの世界へ旅立つことができる。

・『回想モード』では次元立会人と共に、該当シナリオを第三者として旅をするため、シナリオ内の住人とは接触ができない。

・『回想モード』は己が生きた世界をどこでも自由に瞬時に飛び立つことができる。いわばエンディング要素を含んだ『おまけモード』だ。


 以上がVRLの概要だ。


 分からないよね、そりゃそうだ。それに僕だってまだ実際に経験したわけじゃない。

 僕の初回プレイは4月30日とした。


 次は実体験を兼ねた報告ができるはずだ。

 21世紀を体験した僕と、是非とも実りあるお話をしようじゃないか!


 ではまた!


 I.W.0097.4.21

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