第3話 悪魔の商人
夕暮れの市場は人々の活気に満ちていた。だが、どこか異様な雰囲気が漂っている。高価な装飾品を身につけた者、急に金持ちになった者たちの噂が絶えない。そして、それらの富の裏には、ある謎の男の名前が浮かんでは消えていた――ゾルド。
ゾルドは「運を金や権力に換える商人」として知られ、街から街へと渡り歩く。彼が現れるたびに、一部の人々は突如として裕福になり、別の人々は不幸のどん底に突き落とされる。彼は、目に見えない運という力を扱う禁忌の術を持つと言われていた。
ゾルドは街の一角に現れると、巧みに人々の心を掴んでいく。彼の黒いローブと奇妙に輝く紫の瞳は、見る者に恐怖と魅了を同時に与える。
「あなたの人生を変えたいかね?欲しいものを手に入れたいと思ったことはないか?」
ゾルドの声は低く、しかし心の奥底に直接響くような力があった。彼の前に現れる者たちは、いつも貧困や絶望を抱えた者たちだった。
「ほんの少しの運を差し出すだけでいい。代わりに、あなたの夢を叶えてあげよう。」
ゾルドは契約書を差し出す。それにサインをすることで、一時的な富や力を得ることができる。しかし、その代償が何であるかを正確に知る者はいなかった。
運を使い果たした者たちの末路は悲惨だった。
ある男は、運を換金して豪邸を手に入れたが、その直後に家族全員を事故で失った。別の女性は美しさを手に入れるために運を交換したが、彼女の身体は病に蝕まれ、最後は病院のベッドで孤独に息を引き取った。
ゾルドはその様子を見ても何一つ動じることはなかった。むしろ、彼の目的はそこにあった。人々を絶望の淵に追いやり、運を失った者たちの残りの生命エネルギーを吸収すること。それが彼の真の計画だった。
一方、レオとセリーナはゾルドの存在に気づき始めていた。
「奴の目的は、人々の運を吸い尽くすことだ。」
セリーナの声は震えていた。彼女の家族がゾルドの手によって破滅したことを考えると、その恐怖が蘇るのは無理もなかった。
「でも、どうやって彼を止めればいい?」
レオは考え込んだ。ゾルドの力は未知数だ。単純に立ち向かっても勝てる相手ではない。
その時、セリーナがふと手に持っていたペンダントを握りしめた。それは、彼女の母親から受け継いだものだった。
「母が言っていた。運を貯める力は、愛と信念から生まれるって。」
彼女の言葉に、レオは何かが腑に落ちる感覚を覚えた。彼がこれまで貯めてきた運は、見返りを求めない善行から生まれたものだった。それはゾルドの力とは真逆の性質を持つものだ。
「そうか……俺たちにはまだ希望がある。」
レオは決意を固めた。
レオとセリーナは旅に出ることを決めた。ゾルドを止めるため、彼の行動の真相を探り、運を正しく使う方法を広める旅だ。彼らの旅は、単にゾルドとの戦いだけでなく、運の本質を見極め、人々の心を取り戻すための試練でもあった。
「セリーナ、必ず君を守る。君だけじゃない。この世界を守るために、俺は戦う。」
レオの言葉に、セリーナは小さく微笑んだ。
「ありがとう、レオ。私も負けない。」
こうして二人の旅が始まった。悪魔の商人ゾルドを追い、運を守るための戦いが幕を開ける――。
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