第10話:倉庫が映す経営の真実
秋月光一は、事務所でこれまでの出来事を振り返っていた。
水面下では会社の倒産に繋がるさまざまな出来事があり、その中で彼は倉庫業務の重要性について深く考えるようになった。
様々な問題が重なり、そのすべてが関連し合っていることを理解するまでに時間はかからなかった。
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光一の回想は、預かり在庫の問題から始まった。
預かり商品が増えすぎて、倉庫スペースが逼迫し、通常の保管能力の120%を超える在庫が積み上がった結果、貸し倉庫業者からの警告を受ける事態となった。
これは、別の見方をすると想定している保管料がMAX状態になっていることを意味していることを光一は気づいた。
「預かり商品が増えれば増えるほど保管料が加算され、保管期間が長期間になればなるほど、商品の利益率が下がっていく。このことに経営側が気づいていないのだろうか? 営業は、ノルマ達成のための保管料に関しては無関心的な感じだった。もし、どちらかが保管料の重要性に気づいていれば、預かり商品を増やす危険性に気づけたかもしれない…」
そして、倉庫のスペースが限界に近づく中、突然、支店への配送する大型トラックの減便が在庫過多に拍車をかけた。
「在庫過多の状態を生産管理の人が、もっと重要視していれば減産といった対策をとれたのではないだろうか? ただ、これも生産ノルマというか、生産効率を上げる事を求められている生産管理の人には酷なのかもしれない。」
この二つのことから倒産のキッカケを作っているのは、営業と生産管理かもしれないが、その根本的な原因を作っているのは、会社からの無言のプレッシャーに他ならないことが、倉庫の商品の動きを見ているとよくわかる。
しかも、何もしないでも利益は減っていく悪循環。
光一は、毎日、増え続ける商品を間近に見ているので、在庫が増えると何を失っていくのか実感することができた。
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次に思い出されたのは、お客様からのクレームだった。
温湿度管理が出来ない古い倉庫での保管だった為に温湿度管理ができず、商品が劣化してしまい、紙袋の糊付けが弱くなったり、カビが生えたりと商品として使えないケースが続出した。
ある顧客からは「納品された商品がすべて使えず、再注文を余儀なくされて追加コストが発生した」といった具体的な苦情が寄せられた。
また、納品時には狭い倉庫スペースに困惑し、結果的に物流が遅延する事態も発生していた。
そして、お客様からは「営業の人がお願いするから仕方なく注文しているんだよ」という声まで聞かれ困惑した。
「お客様のクレーム。根本的な原因を考えると、預かり商品、ノルマ達成による弊害に辿り着く。なぜ、そのことに気づかないのだろうか? 在庫にもっと気を配れば、お客様のクレームも減るだろうし、信頼関係も今まで以上に築けるのではないか?」
このことから分かるのが、会社側は倉庫の仕事を軽視しているということを実感できる。
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さらに思い出すのは、営業部の混乱だった。
新規開拓を一人で頑張っていた菊池が辞め、営業アシスタントの佐々木も退社した。
菊池は、競合他社との激しい競争の中で粘り強く取引先を増やそうと奔走していたが、その労力に見合う成果が得られず、精神的にも肉体的にも限界を迎えていた。
一方、佐々木は営業部の事務作業を一手に引き受け、細やかな対応で営業スタッフを支えていたが、過剰な負担が続き体調を崩してしまった。
二人の退職は、営業部にとって大きな痛手となり、残されたスタッフにさらなる負荷を与える結果となった。
特に佐々木が過労で労災を受け取っていたという事実は、光一にとって大きな衝撃だった。
「営業マンやアシスタントが辞めることで、さらに新規開拓が難しくなり、今まで以上に預かり商品が増えて、会社全体の売り上げにも影響を与えている…」
この連鎖反応が、会社全体の経営状況をさらに悪化させていた。
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そして、衝撃だったのがボーナスの削減。
毎年、上がることは期待することはなかったが、一気に5万円も減るとは思ってもみなかった。
「上がることは期待していなかったが、まさか減額されるとは予想外だった。これは何を意味するのか…、あの時、従業員全員が真剣に考えていれば……。」
光一は、あの時の衝撃を思い出しながら、減額された理由を深く考えなかったことを後悔したのと同時に、倉庫内の商品の動きをもっと営業と生産管理へ訴えるべきだったのではないかと考えた。
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光一はその日、倉庫内を見回しながら、これらの出来事がどれほど密接に関連しているかを考えた。
預かり在庫が増えすぎたことで在庫過多になり、それが貸し倉庫業者からの警告を招いた。
同時に、大型トラックの定期便の減便がさらに在庫の圧迫を加速させた。
その結果、お客様からのクレームが増え、営業マンやアシスタントの退社が追い打ちをかけ、最後にはボーナス削減という形で従業員全体に影響が及ぶ。
これらの問題はすべて連鎖的に発生し、会社の経営基盤を揺るがしていた。
すべてが一つの問題に集約されていた。
「倉庫の仕事が経営の真実の姿を知ることが出来るとは…」
光一は深い溜息をついた。
倉庫内の在庫管理から会社の経営状況が分かるとは、光一は改めて感じた。
一般的に倉庫作業といえば、商品を保管して、指示通りに出荷するというイメージだが、今回のことでイメージが変わった。
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彼は吉田と話をすることで、さらにその思いを強めた。
「倉庫の仕事は単なる在庫管理じゃないんだな。会社全体の経営に直結する重要な仕事だってことがよく分かったよ」
吉田の言葉に、光一は深く同意した。
吉田と話しながら、倉庫の役割の重要性を理解はしたが、時すでに遅しというのが今の状況だった。
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光一は、いろいろな部署の人に聞いたが、商品が溜まりに溜まっている現実を知っている人がいないという事に危機感を感じた。
「商品が売れていない、動いていないのに、どんどん作られている。」
これは何を意味するのか。誰も気づいていないのだろうか?
本来、お金に換わるはずの商品が、いまだに会社内留まっているのだ。
さらにいえば、お金に換わったはずの商品も、無料で預かっていることで、月に50万円以上の保管料が発生しており、これが年間で600万円もの無駄な経費として経営を圧迫している。
そしてボーナスの減額こそ、倒産へのカウントダウンの始まりということを改めて実感した。
次の更新予定
2025年1月11日 07:00
倉庫現場作業者は見た! 倒産へのカウントダウン アクティー @akuts-j
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