第9話:削減の衝撃、揺らぐやる気
光一は、毎年のボーナスが上がることには期待をしていなかったが、下がることは想像していなかった。
倉庫内の問題や新規開拓の難航、従業員の退職など、様々な困難に直面していたが、ボーナスが減るという知らせはさらに彼の心を揺さぶった。
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ボーナス支給日、いつも通りボーナスの明細を貰った光一は、いつもとは違う紙が付いていることに気づいた。
周囲では、他の従業員たちが明細を確認しながらざわついており、ため息や不満げな声があちこちから聞こえてきた。
そんな空気に影響されるように、光一は少し不安を感じながらもその紙を手に取った。
その紙には「ボーナスに関するお知らせ」と記されていた。
光一は少し不安を感じながらも、内容を読み進めると、目の前が真っ暗になるような感覚に襲われた。
「今回のボーナスは従業員一律で5万円の削減となります」
その一文が、彼の心に重くのしかかった。
ボーナスが上がることには期待していなかったが、下がることまでは考えていなかった。
そして、その額が一気に5万円も減るという現実が、彼にとって大きな衝撃だった。
「今まで、50万円貰っている人が、5万円減額されても1割減だけど、15万円しか貰っていない自分が5万円も削減されたら約3割減。正直、これはキツイし不公平だ」
と心の中で光一は感じていたが、文句を言っても増えることはないので現実を受け入れることにした。
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光一は、このボーナス削減は単なる会社の経営方針の一環ではなく、明らかに経営が苦しくなっている証拠だと確信した。
「これは何を意味するのか…」
光一は自分に問いかけた。
ボーナスの削減は、経営状態が悪化している証拠であり、会社全体が厳しい状況にあることを示していた。
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その日の昼休み、光一は同僚たちと話し合うことにした。
みんなの表情には、困惑と不安が浮かんでいた。
「ボーナスが5万円も減るなんて、こんなことは初めてだよ…」
吉田が呟くように言った。
その言葉に、他の同僚たちも深くうなずいた。
「経営が本当に厳しいんだな。しかし、今月の売り上げは6000万円あり、年商は4億5千万円でそこまで悪いとは思えないんだが。もしかすると、利益率が低いか、固定費が高すぎるのかもしれない。」
光一はその言葉に応じながら、自分の考えをまとめていった。
「確かに、これは経営が苦しい証拠だ。でも、年商4億5千万円もありながらボーナス削減とは。この原因は、明らかに預かり商品が多いのと新規開拓が上手くいっていないことが大きく関係していると思うんだ。」
彼の言葉に、同僚たちは黙り込んだ。
これは、倉庫現場で商品の現物を見ている倉庫作業者だけしか想像できない原因だとみんな考えた。
だからこそ、黙り込んでしまったのだ。
会社は、倉庫の仕事を軽く見ていて、重要視していない。
そんな自分達が、何か言っても無視されるだろう。
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その日の午後、光一は営業部の高橋に会いに行った。
高橋は疲れた表情でデスクに座っていた。
「高橋さん、ボーナスが減るって聞きました。何があったんですか?」
高橋は重い溜息をつきながらうなずいた。
「そうなんだ。私も驚いているんだ。営業の方でも、それなりに売り上げを上げているし、ノルマも達成しているはずなんだが。」
その言葉に光一は一瞬、驚いて聞いてしまった。
「月の売り上げが6000万もあって、年商4億を越えているんですよね?」
高橋は、言葉に詰まり、なんとか返答をした。
「確かに、売り上げや年商は、それなりにあるが、光一君も知っての通り、預かり商品が多いから保管料などがいろいろな経費がかかっているようなんだ。たとえば、月に200万円の保管料や光熱費がかかり、さらに設備維持費も毎月100万円を超える。このような固定費が重くのしかかっているから、実状は、自転車操業といってもいいんじゃないかな。」
高橋の答えは、数字はともかく、光一が想像していたものと、ある程度同じだったので驚きはしなかった。
「やっぱり、そうですよね。」
と光一は会話を切り上げて高橋のもとを去った。
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その後、光一は生産管理部の藤木にも話を聞くことにした。
藤木は生産スケジュールの調整をパソコンで行いながら光一の話に耳を傾けた。
「藤木さん、ボーナスが減額されるって聞きましたが、生産管理部にも影響がありますか?」
藤木は少し眉をひそめながら答えた。
「もちろん影響はある。ボーナスが減るとモチベーションも下がる。どうにかして従業員の士気を保たないといけないんだが、正直厳しい状況だ」
その言葉に、光一は深くうなずいた。
「そうですね。皆が頑張っているのに、報われないと感じてしまうのは辛いことです」
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製造部の橘にも話を聞いた。
橘は機械のメンテナンスをしながら、光一の話に応じた。
「橘さん、ボーナスが減額されたことについて、どう思いますか?」
橘は少し考え込んだ後、真剣な表情で答えた。
「正直言って、ショックだよ。みんな一生懸命働いているのに、結果がこれじゃあな。でも、文句を言っても仕方ない。今はどうにかして生産効率を上げて、少しでも会社を支えるしかない」
光一は、社交辞令的に会話を続けた。
「そうですね。俺たちができることを見つけて、少しでも会社を支えるために頑張りましょう」
橘は力強くうなずいた。
「その通りだ。みんなで協力して、乗り越えていこう」
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光一は、いろいろな部署の人に聞いたが、商品が溜まりに溜まっている現実を知っている人がいないという事に危機感を感じた。
倉庫には約3ヶ月以上動いていない在庫が積み上がり、その量は通常の保管能力を30%も超えていた。
このままではさらに商品の滞留が増え、保管スペースの確保すら困難になる可能性があることを光一は痛感していた。
「商品が売れていない、動いていないのに、どんどん作られている。」
これは何を意味するのか。
誰も気づいていないのだろうか?
本来、お金に換わるはずの商品が、いまだに会社内に留まっているのだ。
さらにいえば、お金に換わったはずの商品も、無料で預かっていることで、保管料という無駄な経費がかかっている。
光一は、このボーナスの減額こそ、倒産へのカウントダウンの始まりということを実感した。
実際、会社はここ数ヶ月赤字が続いており、累積赤字は1,000万円を超えている。
さらに、運転資金を補うために借入金が増加し、金利負担も経営を圧迫しているという事実を、光一は薄々感じ取っていた。
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