(17)機鋼一閃

 ロードラストが水流に押され、地面を軋ませながら後退する。そのたびにコックピット全体に振動が響き渡り、全身が痺れるような感覚に襲われる。俺は操縦桿を引いて体勢を立て直そうとするが、ウォーターブラスターの勢いが想像以上で、まるで巨大な手に押さえつけられているようだった。


「なんや、その程度か?そんなんで決勝まで来れたんが不思議なくらいやわ!」

 通信越しにシラハマ三号のパイロット、ユイの声が飛び込んでくる。

「スペースポート?ルナリウムの恩恵受けまくった温室育ちがイキってるだけやろ!こっちは地元の中小企業が総力挙げて作った技術の結晶や!なめんなよ!」


 画面の端に映るユイの顔は、勝ち誇ったように余裕たっぷりで、その煽りが胸に突き刺さる。悔しい――でも、言い返す余裕すらない。


「くそ…。動け、頼むから!」


 操縦桿を握りしめる手に、自然と力がこもる。でも、ウォーターブラスターの水圧は重く、シールドがギリギリで耐えているだけだ。このまま押し込まれたら終わる。絶望感が胸から喉の奥までせり上がり、頭の中が真っ白になりそうになる。


 視線がふとパネルに落ちる。武器のアイコンが煌めくように映り込んだ。


 AIR BURST CANNON――その名前が、心をぎゅっと掴んだ。


「エアバースト…!」

 その言葉を口にした瞬間、アヤカの声が頭の中に蘇る。


『エアバーストキャノンはね、衝撃波を広範囲に出せるから、相手の攻撃の流れを一瞬断ち切るのに使えるよ。ただし、エネルギーの消耗が激しいから乱発は厳禁!ここぞってときに狙って使うのがポイント!』


 あの自信満々な笑顔が思い浮かぶ。間違いない、今が「ここぞ」だ。


「頼む…!」


 俺は迷わずエアバーストキャノンのスイッチを叩いた。その瞬間、ロードラストの肩部が輝き、次の瞬間に轟音とともに衝撃波を放つ。爆風が空気を裂き、水流を弾き飛ばした。視界がクリアになった瞬間、ディスプレイに映るユイの顔が驚きで固まるのが見えた。


「やるやんか!ちょっと見直したで!」


 ユイの煽り交じりの声が聞こえるが、今の俺にはもう関係ない。ウォーターブラスターの圧力を切り抜けただけで、まだ勝利には遠い。ただ、確かに反撃の糸口は掴んだ。


「ここからだ…!」


 俺は操縦桿を握り直し、ドリルタービンのスイッチに手を伸ばす。これだって、アヤカに叩き込まれたばかりだ。彼女の真剣な言葉がまた蘇る。


『ドリルタービンはね、相手の装甲に風穴を開ける一撃を狙う武器。攻撃する瞬間、フルスロットルで回転数を上げれば、どんな硬い装甲も貫ける…はず!ただ、タイミングが肝心。外したら大損だからね!』


 外せば大損、当たれば逆転。ピッタリすぎるくらい俺向きの賭けだ。


「行くぞ…ロードラスト!」

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