(15)決勝開幕
そうやって俺は決勝戦の会場へ足を踏み出した。耳に飛び込んでくるのは、もうすっかり馴染みになった司会者の熱い声だ。
「さて、それでは決勝戦のスタートです!両機体がスタンバイ完了。観客の皆さん、準備はいいですか!」
会場全体が熱気に包まれる。歓声の波が押し寄せるたび、俺の胸の鼓動も速くなる。深呼吸して落ち着こうとしても、コックピットの中まで響くその熱気がそれを邪魔してくる。これが緊張なのか、それとも期待なのか、自分でもよくわからない。
「と、思いましたが、いやーどちらのパイロットも若いですね~観客の皆さん、見てください、このフレッシュな顔ぶれ!」
スクリーンに俺の顔が映し出される。観客席から歓声と拍手が巻き起こるが、その中に混じる笑い声も聞こえた。なんだよ、そんなに面白いか?
次に映ったのは、シラハマ三号を操縦する少女、ユイの姿だ。彼女の青い髪がライトに反射して目を引く。観客がさらに盛り上がるのを聞いて、少しだけホッとした。良かった、俺だけじゃなかったんだな、下の名前で登録したの。
「若いからこそ、反応速度が活きるんですよね。ムーンギアの操縦では、秒どころかミリ秒単位の判断が求められるんです。それに最近は、大口のスポンサーがついて、企業のベテラン職人が技術を尽くしてカスタマイズしたギアに、切れ味のある若手パイロットを乗せるのが主流ですからねぇ。」
解説者がマイクを通して語る。
「なるほど〜!やっぱり若さと技術の融合なんですね。でも、若いだけじゃないんですよね?話題性も大事って聞きましたけど。」
司会者がさらに話を振ると、解説者が微笑みながら頷く。
「ええ、実際、ムーンギアのパイロットだけで構成されたアイドルグループまであるくらいですからね。ファン層を取り込む狙いもあるんでしょう。」
「ムーンギアの世界、奥が深い!さて、そんなムーンギアバトルの和歌山大会の決勝を飾る二機をご紹介いたしましょう!」
スクリーンに映し出されたのは、堂々としたシラハマ三号と、俺の操縦するロードラストだ。観客の歓声がコックピットにまで響いてくる。緊張がさらに増していく。
「さぁ、まずはシラハマ三号のご紹介から!青と白の塗装が映えるこの機体は、水を駆使した戦闘スタイルで有名です。まずはウォーターブラスター!会場周囲の海から取水し、高圧水流を発射して敵機の動きを封じます!そして背部に装備されたのが、クジラスラッシャー!巨大な尾ひれを模したこのブレードは、鋭い回転力と高い破壊力で近接戦で一撃必殺を狙います!遠距離と近距離、両面での戦闘が得意なオールラウンダーですね!」
観客席から飛び交う拍手と歓声。これまでの対戦相手とは格が違う雰囲気だ。観客の期待も、シラハマ三号が勝つことを前提にしているように感じる。
「一方、対戦相手のロードラストですが…おぉっと!これはどうやら、準決勝からの間にシラハマ三号対策をしっかりしてきたように見えます!」
司会者の声に続いて、スクリーンがロードラストのアップに切り替わる。新たに追加した装備が映し出されるたびに、観客のざわつきが増していく。
アヤカの顔が脳裏に浮かぶ。こいつがいなかったら、こんな準備は到底できなかっただろう。ドリルを交換し、他の武器を追加して…準備は万端だ。でも、万全の準備が勝利を保証するわけじゃない。
操縦桿を握る手に力を込めた。これ以上考えても仕方ない。俺たちはやるしかないんだ。
「よし、やるぞ…!」
鼓動が速まる音とともに、決勝戦が今始まる。
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