報告書2:ある構成員との会話記録
インタビュアー:それでは、お話してください。
男の声:その前にもう一度確認させてくれ。
インタビュアー:なんでしょうか。
男の声:本当に提示額どおりの報酬をくれるんだろうな?
インタビュアー:はい、お約束します。
男の声:話すだけ話させたら、そのままトンズラなんてしないか?
インタビュアー:誓いましょう。
男の声:そうか、それならいいんだ。何度も悪かったよ。こっちもタダ働きはゴメンなんでな。
インタビュアー:では改めてお願いします。
男の声:ああ。ええっと、始めはなんだったか。
インタビュアー:まず、貴方の所属している組織についてお聞かせください。
男の声:俺が居るのは『キサラギ神社軍』だ。サクラにそこそこな規模の縄張りを持ってる。
インタビュアー:サクラとは、ウエストライテと東欧連合が共同で建設を進めていた復興都市サクラのことですね。
男の声:ん、ああそうだよ。今じゃ誰もが捨てられた街とか犯罪者の巣窟と呼んでるがな。
インタビュアー:キサラギ神社軍とは、どのような組織なのですか?
男の声:ヤクザとかマフィアとか、まぁそういう手合いの裏稼業だ。血と暴力を振り翳し、他人を食い物にして生きている、そういうな。
インタビュアー:特別な薬物を売り捌いたり?
男の声:商売女も扱ってるし、店もあちこちに持ってる。地上げに金貸し、相手が死ぬまで殴り合わせる熱い賭け試合とかよ。金になるなら、大抵のことはやるぜ。
インタビュアー:極めて危険な組織であるということですね。
男の声:確かに真人間の集まりじゃないが、メチャクチャする無法者でもないぞ。俺達にだってルールはある。
インタビュアー:例えば、どのような?
男の声:ちょっかいを掛けられれば全力で報復するが、自分達から喧嘩を売る真似はしない。
インタビュアー:こちらから近付かない限り、手を出しては来ないということですか?
男の声:そうとも。どころかシマの中で揉め事があれば仲裁するし、外の奴にインネンつけられたら庇って護る。
インタビュアー:仁義を重んじていると?
男の声:そんな立派なもんじゃない。外道も働くしな。ただ最低限、踏み越えちゃならねぇ矜持を持ってるって話さ。
インタビュアー:もう少し具体的にお願いできますか。
男の声:嫌がる女にムリヤリ客を取らせたりしないし、その辺の兄ちゃんを煽ってクスリ漬けにもしない。自分で決めて選んで、足を運んできた奴だけ相手してるのさ。
インタビュアー:賭け試合も?
男の声:自主的に参加する奴で試合を組むんだぜ。買ったら莫大なファイトマネーが支払われるから、参加したいって奴はそれなりにいる。
インタビュアー:なるほど。それは組織の方針ですか?
男の声:ああ、ボスがそう決めた。だから俺達はそれに従う。
インタビュアー:キサラギ神社軍のボスとは何者ですか?
男の声:美人だが、おっかない女さ。いつも白いキモノだかコロモだかを着て、脚には赤いスカート……じゃないな、アレはなんだ。こうヒラヒラしてるような違うような。
インタビュアー:ハカマ、緋袴でしょうか。
男の声:そうそう、それだ! 珍妙な恰好だが、なんとも言えない凄みというか雰囲気がある。逆らい難いっていうのかね。
インタビュアー:巫女装束を纏ったマフィアのボス、確かに奇妙な組み合わせですね。組織名からしても、ですが。
男の声:んあ?
インタビュアー:神社というのは、旧日本に存在した宗教施設の一形態だったと記憶しています。
男の声:その辺のことはよく知らん。俺は外からの流れ者だからな。ただボスは上代の頃からこの一帯に住んでたらしい。
インタビュアー:ボスの名前を言うことは可能ですか?
男の声:ああ、いいぜ。キサラギ=イサナ。キサラギ神社軍を立ち上げたのは、ボスの血族なんだ。
インタビュアー:キサラギ氏について、他の特徴などあれば話せる範囲で教えて下さい。
男の声:目付き鋭く、背筋が伸びてて、全身に隙がない。恐ろしく腕っぷしが強くてよ、大男を細腕一本で投げ飛ばしちまうときた。
インタビュアー:それは凄まじいですね。
男の声:ああ、まったくだ。怒鳴り散らすようなみっともない真似もせず、いつも毅然として氷みたいに落ち着いてる。そして人使いが荒い。
インタビュアー:反感を抱いている者はいませんか?
男の声:どうだろうな。寧ろ心酔してる奴等の方が多そうだ。俺みたいな外様にも分け隔てないし、組織に貢献すれば相応に見返りがある。
インタビュアー:偉大なリーダーということですね。
男の声:剛力無双なのにスラリとして見目もいいんで、若い連中は気に入られようと特に必死だなぁ。俺はボスのやり方にこそ惚れてるがね。
インタビュアー:無関係な者を傷付けない配慮ですか?
男の声:いいや。必要な時に武力の行使を躊躇わないところさ。ウルセェことをギャーギャー喚くアホ共なんぞ一顧だにせず、こうと決めたら暴力で叩き潰して黙らせる。
インタビュアー:力づくで反論を封じると?
男の声:分かりやすいし何より早いだろ。議論に値せずと定めちまえば、容赦なんぞ一切しない。あの冷厳で豪胆な姿勢は痺れるね。
インタビュアー:そこはやはりアンダーグラウンドな組織を束ねる頭目ということですね。どうも、ありがとうございました。
男の声:お、こんなもんでいいのか。それじゃ報酬の方を頼むぜ。
インタビュアー:実は他の方にも話を聞いてみたいのですが、良ければ誰か紹介していただけませんか? 追加の報酬を約束しますので。
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