セカンドの血録
道化道
報告書1:争乱と起源
全ての始まりは三度目の世界大戦だった。
現在、社会全体に蔓延する暗鬱とした不安定さと大小多数の混乱は、人類が文化的文明的営みを紡ぐうえで大きな懸念材料であることは間違いない。
これらの直接原因として考えられる四つの事項を再定義し、まとめ置くものとする。
【第三次世界大戦】
国際摩擦、残有資源問題、宗教論争、経済格差、主義思想の相違、移民流入による文化の破壊と混乱など、様々な要因が複雑に絡まり合い、人類全体の方向性として進退窮まった末に始まったもの。
地球の西半分が統合された『ウエストライテ』と、東半分が集同した『東欧連合』による未曾有の世界戦争。
文字通り地球を二分した空前の大戦。
工業生産力で勝るウエストライテが自律型無人機動兵器を実用化し、開戦初期から中期にかけて東欧連合を圧倒した。
自律型無人機動兵器は人間を介在させずフルオートで設計製造が行われる自動工場により増産され、性能と物量の両面に於いて敵勢力を苦しめる。
この戦いで東欧連合に参加する複数国が甚大な被害へ曝されたが、特に日本国は列島全土を徹底的に蹂躙され、国体を維持できず壊滅してしまった。
だが大戦末期に至り、東欧連合が研究開発した戦略生体兵器群『セカンド』の投入により戦況は一転。東欧連合はあらゆる戦域を押し戻し、ウエストライテ勢力圏を逆侵攻した末、連合優位による講和へとこぎ着けた。
開戦から8年後、東欧連合・ウエストライテ双方の合意を以って大戦は終結を迎える。
この争いは東西両勢力を問わず技術躍進こそ促したが、あらゆるものが深く傷付き、膨大な人命を奪い、致命的に民心を荒ませた。以後の世に退廃的な閉塞感を
【セカンド】
第三次大戦中、自律型無人機動兵器に対抗するため東欧連合が構築した戦略生体兵器群の総称。
正式名称は『
人為的に特異性能力を発現させた人型モデル。戦場では
発生段階から遺伝子操作を受け、培養調整槽で高速成育されたデザイナーズチャイルドが素体となっている。
一定段階に達した脳幹の未覚醒領域を外科手術と投薬により拡張発達させることで、超常的な念動力や瞬間転移能力、空間掌握能力をはじめ任意に事象へ干渉操作する力が開発された。
獲得行使する能力には個体差があり、運用可能な事象干渉やその範囲・威力・持続性にはバラつきが目立つ。
大戦末期に戦場へ投入され、大多数の自律型無人機動兵器を撃滅し、絶大な戦果を挙げた。幾つもの戦域で状況を逆転させ、数えきれない友軍の生命を救ったため英雄視される。
セカンドの活躍によって東欧連合優位で講和が成り、大戦は終結した。以後はウエストライテの工業生産力を動員し、戦傷地の復興と発展が約束される。
しかし戦うべく生み出され、それのみが存在意義であったセカンドは尚も戦場を求めて止まず、終戦後も旧敵対国を無差別攻撃し始めてしまう。
その苛烈さ、闘争本能、破壊規模から兇悪なテロ集団と化し、終戦の立役者から災厄の象徴へ滑落した。
ウエストライテとの和合で社会秩序の建て直しを求める連合上層部は、暴走するセカンドが人類の脅威でしかないと断定し、その廃棄抹殺を下令。あらゆる手段を用いてのセカンド狩りが実行される。
個々が圧倒的な戦力を誇るセカンドだったが、軍組織による多重多段且つ執拗な包囲飽和攻撃に苛まれ、次々と討ち取られていった。
終戦から4年をかけ、暴威振り撒くセカンドは軒並み平らげられ、ようやく世界には一応の安寧が取り戻される。
ただしセカンドは絶滅していない。
自制の利く数割は素性と能力を隠し、社会に紛れ、普通の人間として命脈を繋いでいた。
一般社会に馴染めない生き残りは裏社会へと落ち、犯罪組織の用心棒や始末屋として働いている。
【復興都市サクラ】
第三次世界大戦で本土を蹂躙され、荒廃の限りを尽くす旧日本跡地に再建された巨大都市。
ウエストライテと東欧連合が共同で建設計画を推進し、平和な新時代へ向けての記念碑的意味合いを持つ。
幾つもの最新技術が導入された試験モデルでもあり、クリーン且つ莫大なエネルギーを生み出す『レクテナプラント』を擁す。
これは静止衛星軌道上に存在する発電衛星と、地上部へ併設されているレビーシング・アンテナによって確立される電力供給システム。発電衛星は太陽電池パドルによって電力を発生させ、これをマイクロウェーブに変換して地上へ発信。レビーシング・アンテナで受信後、再度電力に変換して都市全域へ供給していく。
当初は順調に開発が進んでいたものの、暴走セカンド決起の際、彼等の侵略拠点として制圧支配された。
世間から最も注目されている場所の一つだったことと、レクテナプラントや生産用自動工場が内包されていることにより、スタンドアローンタイプの要塞として転用できるため狙われた。
その後に行われた掃討作戦で占領していたセカンドは駆逐されるも、血に汚れ平和のシンボルたる意味は失墜し、東西両勢力から放棄される。
開発計画の中止と共に管理管轄から意図的に除外されたが、流れてきた違法移民や犯罪者が住み着き始め、暴力や騙し合いや裏取引が横行する大規模なスラム化を遂げた。
現在はマフィアや極道組織、犯罪シンジケートなど複数勢力が各々に縄張りを築き、厳しく睨み合う一触即発の火薬庫が如き状況となっている。
世間の認識では醜悪苛烈な犯罪温床都市ではあるも、実際には裏社会の流儀や法理が方々へ浸透し一定の治安は保たれており、当局の介入がほぼないため脛に傷持つ者にとっては比較的住みやすい。
【キリエザキ=ヒカリ】
東欧連合加盟国の一つだった旧日本出身の女性科学者。
物理学各派・化学・生物学・遺伝子工学・電子工学・情報工学・数学・医学・形而上学の権威で、数多の分野に精通する英才。
セカンド開発の中心人物であり、その基礎理論から能力発現メカニズムや制御体系を殆ど単独で組み上げた。
最初期のプロトタイプには自身から抽出後クローン培養した卵細胞を基幹素子として用いており、遺伝的繋がりの意味でもセカンドの母と呼べる人物。
性格や思想といった人物像に関わるものは大戦末期の混乱で消失し、属していた研究所も空爆により破壊されているため詳しい個人情報は不明。
一説には終戦後、セカンドを扇動教唆し蜂起へと駆り立てた元凶であるともされる。
公的には既に死亡しているが、彼女の遺体が回収確認されたという正式な記録は残っていない。
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