3ヶ条

「ついぞジュエリーデビューだ。準備はいいかい?」


 緊張する……


「またかい。意外と小心だね」


 悪かったな。ジュエリーなんて気にしたことなかったんだ。


「なぜ?」


 高いし、生きるのに必要じゃないし、壊したり失くしたりしたら大損だし。


「デメリットしか見えなかったワケだ」


 あぁ。でも今になってようやく、受け入れられるかも…… と思えるようになった。


「価値観なんてそんなものさ。ではでは、誰を引き取るか決めに行こう」



「なんとも豪華絢爛…… あれもこれも欲しくなっちゃう」


 欲しくなる余地無いだろ、予算的に。


「無粋だねぇ。妄想くらいさせておくれよ」


 時間の無駄。


「君が分かってくれなかったらどうしたらいいんだよぅ」


 知らん。



「で、どれにするんだい?」


 ……決められん。何も分からん。


「優柔不断め…… と言いたいところだが、どうもね。やはり悩んでしまうよ」


 改めて、俺の予算は10万だ。お前は?


「同じく。そこが分水嶺だった」


 選択肢は多くないのに、どれもいまいちピンとこない。


「だったら、同じのにするかい?」


 は?


「同じモノを買おうと言ってるんだよ。どうだい?」


 同じって…… 同じってことか?


「同じってことさ。あ、このネックレスなんかよさそう。黒と白で2色あるよ」


 お揃いになるんだぞ。


「そうだが?」


 『だが?』じゃないが。恥ずかしいとかないのか?


「う〜ん? ないことはないかな。でもそれも1人ではないからね」


 1人じゃ、ない。


「君がいてくれる、そうだろう?」


 そうだけどさ。


「じゃあ買おう?」


 ……分かったよ。でも先にケースから出して手にとってみよう。


「感触を確かめるのか、よろしい。マスター! こちらのネックレス、トライ願います!」


 これ2つ、見せてください。



「いやはやいやはや、いい買い物だった。陽の光を受けて輝いているよ」


 つけて帰るべきなのか?


「つけて出かける機会も少ないんだから当然だろう」


 まぁなぁ。あとお前、黒でよかったのか?


「黒が好きなんだよ。深淵に見せかけて浅薄なところがさ」


 分からん。俺は白が嫌いじゃないから別にいいが。


「ふふん、自然と胸を張ってしまうよ。こんなに堂々と表を歩ける日がくるとはね」


 つけてると自信が湧いてくるな。『これを見て』って気になんのかな。


「いい発見じゃないか。人の神秘が1つ解き明かされたね」


 大げさ。


「だから君は無粋なんだって。それじゃあ異性は喜んじゃくれないよ?」


 遅いだろ。


「そうだったそうだった」

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