4ヶ条(1)
「デートなるものを研究した結果…… 水族館に行って旅館に1泊するのが妥当ということになったよ」
世の中ではこれをデートと呼ぶよな? 多分。
「恐らく。盟約の証も首から下がってるしね。見るからにはそれっぽいんじゃないかい?」
……そうだな。
「不服かい?」
んあ?
「これをデートだと思うのは」
そんなワケ、ない。十分すぎる。
「そうかい。君が素直で嬉しいよ」
俺もだ。
「お魚さんがいっぱ〜い。美味しそう」
小学生か。
「チッチッチッ。本質、童心を露わにすべき場面は必ずあるんだよ。君はそのセンスが足りないね」
はいはい。
「君はどう感じる? 彼らの有様を」
何だか、なぁ。心の奥底まで明らかにされる感じだ。
「いいね、もっともっと」
だけど、完全な平和がありはしない。嘲るような皮肉が、ガラスの向こうで佇んでるような気がしてならない。『囚人は誰だ?』って問いをずっと打ち付けられてる感覚に襲われる。
「……ほう」
喋りすぎた。忘れてくれ。
「いや、美しいよ。先の発言は取り消そう。君の本質はなかなかのものだ」
褒めてんのか?
「どうだろう?」
そこははっきりしてくれよ。
「イルカショーがあるらしいよ。どうする?」
正直に言っていいか?
「どうぞ」
面倒くさい。
「奇遇だね、同感だ」
混んでそう、うるさそう、濡れそう、ゆえに疲れる。
「Q.E.D…… 素晴らしい叙述だ」
じゃあどうするか。
「哺乳類の道楽にそっぽを向け、お土産でも物色して去るというのは?」
大いにアリ。
「ではでは、お土産コーナーはあちらでございます」
「なんとも可愛らしいお人形さんたち。目眩がするよ」
悲しいな。俺たちはこいつらを愛でる余裕が無い。
「消えものを買おうね。お、ビスケッツにしようかな」
おい、そんなにデカいの買うなよ。2人だぞ。
「せっかくなんだからさぁ」
ラーメンもそうだけど、キャパを考えて無さすぎる。その半分でいい。
「はぁ~ 正論はつらいね。だが仕方ない、贖罪もかねて聞き入れよう」
俺は……チョコにする。
「チョコだけどさ。ミルク、ホワイト、ビターならどれが好き?」
ミルク一択。
「その心は?」
チョコは黒くて甘いものだ。ホワイトは白い理由が分からん、軽率な感じがする。ビターは苦いのがありえん。『苦いのがいい』と言うならチョコ食うな。
「思想が強いね。でも分かるよ、ミルクが最も魅力的だ」
お前は素晴らしい。
「とっくに知ってる。それでは、旅館に行こうか」
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