1ヶ条

「すごい行列。さすがは二郎と言うべきか」


 昼時のピークに来たからな。


「待つのは嫌いじゃないよ。のんびりしよう」

 

 それしかない。


「それにしても噂の彼、いざ対面となるとワクワクするね。胃袋も武者震いしてるよ」


 そういえば、正確に言うとここ、二郎じゃないんだってよ。


「あ、そうなの?」


 二郎系、インスパイアの人気店だ。


「パクリってこと?」


 そう。


「でも本質は同じだよね? もやしにアブラにワシワシ麺といったポイントはさ」


 本質というか、具材はほとんど同じだな。


「なら構わないさ。本物にこだわる審美眼も持たないからね」


 俺も。どこも変わらんだろ。


「無神経は正義だね」



「ふぅ、注文できた。ちゃんと言えたよ」


 食べ切れるのか? 俺は全部普通だぞ?


「麺は減らしたよ?」


 でも野菜アブラにんにくマシマシって。知らんぞ。


「マシマシって言ってみたいじゃないか、どうせなら」


 お前の勝手ではあるけどな。ただし俺は手伝わんからな。


「もちろん。自分の戦いに集中したまえ」



「着丼…… だが、これは何だ……?」


 ラーメンだろ。早く食えよ。


「もやししか見えない…… これが全部、胃に入るものか……?」


 ほら、やっぱり食えないんだろ。


「むぅ、シぬ気になれば何だって食べられるさ。いざ!」



「うっぷ…… うぇっぷ……」


 言わんこっちゃない。


「もやしをやっとこさ消したのに、麺が一向に減らない…… イリュージョン……」


 チャーシューも丸々残ってるじゃん。


「実に満腹中枢と血圧を刺激する一品だ…… 何ともはや……」


 後悔してるだろ。


「まさかまさか…… 勝負はこれから…… げぇっ、ぶぇっ」


 無理すんなって。残せよ。


「もったいない…… もう少し、もう…… げっ、ぐっげぇ?! ん、おっ、おおお〜〜〜?!」


 あ、おい、トイレか?!



「うぅ…… 誠に遺憾……」


 吐くまで食うなよ。トイレに間に合ったのはいいけどさ。店員は白い目してたぞ。


「挑戦の結果さ…… 周りに迷惑になったのは申し訳なく思うがね」


 お前なぁ。


「でもいい経験になったよ」


 何?


「吐くほど食べるなんて今までなかった。最近はただ何かを口に入れるだけでよかったからさ」


 そういや俺も久しぶりに腹パンパンだな。


「こうでもしないと味わえなかったさ。ある意味面白かったよ」


 変なの。


「よく知ってるだろう?」


 まぁな。


「ならよし」


 ……コンビニでウーロン茶買わないか?


「異議無し。ブレスケアも追加で」

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