シにたがりとシぬまでにシたい4ヶ条

@kamulo

作戦会議

「そろそろシのうと思うんだ」


 奇遇だな、俺もだ。


「よろしい。ならば心中といこう」


 いいだろう。



「方法はどうする?」


 飛び降りか。一瞬で終わる。


「顔がぐちゃぐちゃになるかもよ?」


 駄目か?


「葬式で顔も分かってもらえない、実にもったいないよ」


 まぁ、せっかく参列してくれたのにな。


「遊園地のメインが休止してたら興ざめだろう?」


 遊園地と同列に語っていいものか?


「細かいことは気にしない。とにもかくにも、顔も体も綺麗に残るのがいいのさ」


 となると、練炭とか首吊り。


「練炭は難しそうだね。失敗して障害だけもらって生き長らえるかも」


 無理。それだけは嫌だ。


「きっと後悔するだろうね、自分の愚かさに」


 だったらもっとシンプルな吊りがいいのか。


「手軽で確実。よさげだよ」


 なら、それで。


「決まりだね」



「場所はどうする? 樹海とか行っちゃう?」


 見つけてもらわないと残るも何もないだろ。


「そうだったそうだった」


 実家の倉庫…… そこがいい。


「そんなのもあったね」


 毎朝じいちゃんが倉庫を開けるから、それで見つけてもらえる。


「いいね、バッチリだ。となると旅立ちは深夜になるね」


 だな。



「さてさてさーてさてさて、場所も決まったことだ。ロープを見に行こう」


 今から?


「善は急げと何とやら。ホームセンターに向かいたまえ」


 はいはい。



「なんて素敵なロープたち…… 目移りしちゃう」


 これなんかいい、太くて丈夫だ。


「毛羽立ちが気になるけど、妥協かな」


 買うか。店員を呼んでくる。


「マスター! このロープ、ありったけお願い!」


 4メートルください。



「いい買い物をしたね。心躍る躍る〜」


 どうする、コレ。


「使うよ? 今さら何さ」


 今、か。そうだよな。


「どうかした?」


 いや、何も。


「いけないね。思うところははっきりしよう。最後なんだから」


 最後……


「ほら」


 お前、お前はやっておきたいこと、無いのか?


「ほう、そうきたか」


 どうなんだよ。


「無いね、個人的には」


 何だそれ。


「つまりだね、君のやりたいことに付き合う意思はあるのさ。何かあるんだろう?」


 ぼんやりと、だが。


「何個ある? どんなの?」


 そうだな……


「多すぎは駄目だよ。時間がかかるのも駄目。世界一周なんて言ってごらん、貴重なシぬ気が削がれちゃうよ」


 大したことじゃないし、3個くらいだ。


「4個にしよう。縁起が悪い」


 分かった分かった。



「この4個?」


 これでいい。


1.二郎ラーメンを食べる

2.猫カフェに行く

3.ジュエリーを買う

4.デート


「案外やれそうでやれなかったことだね」


 お前もやったことないだろ?


「そうだね、全部未経験」


 やっておきたいんだ。


「ふむふむ。しかしデートは誰と? 意中の相手でもいるのかな?」


 は?


「ん?」


 ウソだろ?


「……あぁ、ここ?」


 ここ以外あんのかって。


「そっかそっか。いやはやいやはや、灯台下暗しというか、なるほどね〜」


 うるさいうるさい。


「いいよ。やりたいことで人生を満たしてから最後を迎えようじゃないか」


 そうさせてもらう。


「この4個…… 4ヶ条としよう。これら条件を全て満たせば、きっと最高の旅立ちに臨めるはずさ」


 だといいな。


「それを祈願する意味でも、4ヶ条、シぬ気でやり抜こうね」


 もちろん。お前も頼むぞ。


「御心のままに」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る