第20話 エリア
『……ともかく、3つ目のダンジョン制覇、ありがとうね』
「何か変わったの?」
結局エリスはコボルドの体には戻らず、幽霊のままでいることにしたみたいだ。
『それを説明するのには……いったん外に出ましょう』
そして例のごとくダンジョンの構造を変化させ、僕たちはダンジョンの外にでる。
つくづく思うが、普通の探索者は長い道のりを戻るんだから大変だ。
帰りにもモンスターが出るだろうし……
「出たよ?」
『ふふっ、えいっ!』
草むらを抜けて道に出たところでエリスに声をかけると、彼女は掛け声とともに消え、そしてそこには不気味な白い骸骨が現れた。
「うわっ、外で見るとまた不気味さがひどいね」
『しょうがないわよ……コボルトだとカナメがおかしくなっちゃうから……』
どうも、ダンジョンマネージャーたる彼女が外でダンジョンマスターの体を使える能力を得たらしい。
「でも、家で骸骨が生活しているのはちょっと……」
『まあ、別にできるだけでやらなくても構わないわけだし、普段は幽霊のままでいるわ』
そして、この能力にも制限があるという。
『エリア制限ね』
なんでも、支配下にあるダンジョンを直線で結んだ範囲の内側を支配エリアとして設定することができるのだそうだ。
『ジュリア・ウッドが国内を自由に動けているのもこの能力ね』
確かに、日本の担当である女神、ジュリア・ウッドはさっきまで東京にいたのにいつの間にか大阪の重要ダンジョンで目撃されたりしている。
ネットでは瞬間移動の能力があるのだと思われているが、一般には「女神だしありうるか」なんて納得している人が多い。
実際には、ダンジョンマネージャーとしての能力を使っていたということのようだ。
「それ以外は?」
『今のところは、これだけ。移動できるのは私だけだし、外に一般のモンスターを出すこともできない。まあ、できてもやらないけど……』
町中にモンスター、というのは、誰もうれしくないので当然だ。
「そうかあ……じゃあ、エリスとしてはもっと遠くのダンジョンを攻略したいんだね」
仮に、鹿児島と千葉と北海道のダンジョンを支配下に置けば国内の主要な部分には移動できることになるだろう。
僕は日本地図を頭に思い浮かべながらそう考える。
『そうだけど、まあ徐々に広げていければいいわ。あんまり派手に動いて他の女神に気づかれるのは避けたいし……』
彼女は女神に殺されたのだと思われる。
本当は女神ですら彼女を殺せるのかわからないぐらいだが、なればこそ他の存在には不可能だ。
そして、エリスが幽霊になっても活動していることに気づかれるのは良いことではないだろう。
『とにかく戻りましょう』
「うん、そうだね」
僕は昨日と同じく、懐中電灯で道を照らしながら家路につく。
この辺りに街灯なんて便利なものは無いのだ。
*****
「あれ?」
「ヤバいっ!」
僕が風呂から上がって居間の和室に入ると、エリスがPCの前でコボルドの姿をとっていた。
慌てて彼女は骨に変化して、僕に抱き着かれるのを拒否する。
「せっかくだからかわいいほうがいいのに……」
『よくない』
「そんなあ……」
我が家は今までの3つのダンジョンが作る三角形の内側に存在する。
したがってエリスはこの家の中でもダンジョンマスターの姿を借りることができた。
『パソコンが使えればこっちでもいいのよ』
「ああ、そうか……今まで
僕は部屋にあるテレビをつける。
冬にはこたつになるテーブルの前に座ると、足を投げ出して畳に寝っ転がる。
この家には部屋がたくさんあるが、エアコンが付いているのはこの部屋だけだから、僕は可能な限りこの部屋を使う。
布団も隅に置いてあるし、テレビも置いてあり、勉強用の机にはPCが置かれ、部屋の真ん中にはこたつ机がある。
田舎の8畳間だから狭い感じはしないが、お盆に両親が泊まりに来る予定だから、その時はこたつ机を片付けないといけないな。
「で、何を調べていたの?」
『地図とダンジョンの位置を調べて、あとは他の女神の情報ね』
「ジュリア・ウッドの?」
『一応世界中の動きを見てるわ』
「あれ? 外国語できたの?」
『……私、エリス・ベル』
「うん」
『どう考えても日本人じゃない』
「なるほど」
『まあ、じゃあ人種は何? って言われると困るけど、言葉なんて女神なら余裕』
「そうだよね」
後で英語の宿題手伝ってもらおう。
「それで、何か面白いものあった?」
テレビのバラエティーを聞き流しながらエリスに聞いた。
『そうねえ、感覚的にはちょっと焦っているみたいね』
「まさか、間に合わない?」
『もともと異世界のかけらを100%取り除けるなんていう予定じゃないわ。ただ、何もしなければ前に発表したように、地上の生物が全滅という可能性があった。だから、当時の予想としては80%達成できれば、ほとんどの生物は生き延びる。70%でも全滅する地域はない。それを切ると、一部の地域は生物の住めない環境になる可能性があるってことなの』
「じゃあ、今の見込みだと80%を切るってこと?」
『そうね……私は運営担当じゃないから正確なところは言えないけれど、今の状況を見るとそうだと思う』
まだ、30年のうち5年が過ぎただけだが、この時点で焦っているというのは気が早いようもするけど、そこはこの世界を見守り続けてきた女神の責任感ということなのだろう。
『まあ、私たちは私たちでやるべきことをやるだけね……それで、次なんだけど……』
「ちょっと待って!」
僕は起き上がってエリスの言葉を遮った。
「……あと1週間で両親が来るんだ。だから、ちょっとダンジョン行きは控えめにしたいんだけど……」
『そう、じゃあそれまではあと1か所ぐらいにしようか?』
「助かる。けど、次のはもっと遠いんだよね?」
『さすがに夜に抜け出して徒歩10分ってことはないけれど、一晩かかるってことはないはずよ。それでも……今までよりも長くかかるから昼に寝て夜活動するのがいいかもね』
「ああ、それは困るな」
もし昼夜逆転生活をするとして、一週間後にそんな姿をさらして生活が乱れていると心配されるのは問題だ。
「それならさっさと終わらせたい。明日か明後日でどう?」
『じゃあ、それで。予定してるダンジョンは……』
道としてはいったん集落の方に行くが、途中で折り返して隣の山を登る道を行く。
その山の中には神社があるのだが、その近くということになる。
「ちょっと遠いね。自転車の出番かな」
一応自宅で使っていたマウンテンバイクがあるので、山の上り下りでも何とかなるだろう。
『じゃあそういうことで、準備しておいてね』
「わかったよ」
さあ、タイヤに空気を入れておくか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます