第14話 ボス
それからの道中は順調だった。
奥に行くにつれて、ゴブリンスケルトンと火の玉ウィスプが一緒に襲ってきたり、それぞれの数が増えたりしたものの、僕もスキルに慣れて発動がスムーズになったので、怪我をせずに進むことができていた。
でもそろそろ飽きてきたかな……
僕は腰を下ろしてリュックから目覚まし時計を取り出して、経過時間を確かめる。
すでに3時間近い。
『なんでそんなものを持ち込んでいるの?』
「だって、腕時計はデジタルのしか持ってないし……」
もともと携帯電話を持つというのは今の体質的に考えられない。
中学生の時に持っていたものは電話番号が変わると面倒なので、契約を休止状態にして実家に置きっぱなしにしている。
腕時計は元から持っていたものだが、安物のデジタル表示の物だ。
別に機械式である必要はなくて、デジタル回路が介在していなければクォーツ時計でもダンジョン内で使えるので、高校に入ったら買い換えようと思っていたのだ。
そんなわけで、突然のダンジョン探索で持って入れる最小の時計がこの目覚まし時計だっただけだ。
学校の授業がリモートで行われている時期にはお世話になっていたが、今は夏休み期間ということもあってしばらく使っていない。
「そろそろ帰ろうかな……」
『そうね……それでもいいけど、もう最奥近いから進んだ方が楽かもしれないわよ』
「え? 別にボスを倒したからって歩いて戻る距離が増えるだけじゃない?」
『私が憑依すれば、ダンジョンの緊急脱出も構造変更で入口を近くするのも自由よ』
「ああ、そういう……」
今は使われていないダンジョンマスターの権限を、彼女なら使えるという話だった。
そうだな……
体力的には問題ない。
魔力的なものの残量も……まだそれほどじゃないな。
それに、今ここで引き返すとさらにもう一度ここまで来ないといけない。
それも面倒だし……
「じゃあ、あとちょっと頑張ってみるよ」
『やったあ』
僕はペットボトルのお茶を飲み、ドライフルーツの入ったエナジーバーを一本食べて、トイレも(そこらへんで)済ませ、再び進む準備をする。
*****
「ああ、なるほど」
「なるほど」と口に出してしまうぐらいダンジョンのボスの部屋はわかりやすい。
だって今まで人工物と言えば墓や卒塔婆、あと提灯ぐらいだったのに、壁に金属製の扉があるのだ。
そうか、このダンジョンはそもそも部屋とか分かれ道とか無かったな……それが最下位ランクダンジョンの『ショボさ』なんだろう……
扉の周囲は広場になっているということはなく、単に普通の通路の突き当りがその扉になっている。
『いよいよね』
「うん……じゃあ、行くよ」
両方の扉に手をかけて、押して入る。
基本的にボス、つまりダンジョンマスターはその直前のあたりのモンスターより一段強い。だからぎりぎりの状態でたどり着いた場合には負ける可能性もある。
ただ、僕の場合のように、かすり傷程度で余裕で勝てる場合には、ボスも心配はいらないらしい。
そんなわけで、僕としては緊張していたが必死になるほどではないと思っていた……
中には鎧をまとった骨がいた。
「ひえっ」
『カナメっ、後ろ!』
言われて僕は慌てて右前に身を投げ出す。
飛びながら背後を確認すると、火の玉が2つ浮かんでいる。
「……不意打ちか……電波! もひとつ!」
習熟した今ならば同時ではないものの2連発ぐらいは何とかなる。
相変わらず見えない僕のスキルは、一気に火の玉を消し飛ばす。
『今度は前!』
そうだ、変な達成感に喜んでいるわけにはいかない。
ここにはボスがいる。
僕は、振り向きざまナタを横向きに振る。
危ない。
もう少し離れていると思ったが、意外にこの骨は速かった。
今までのゴブリンのそれとは違い
粗末だし錆びているが、ところどころに金属が使われた革の防具をまとっている。
そして、剣。
やはりボロボロだが、金属製の剣を手に持っており、今僕のナタが弾き飛ばしたのはそれだった。
「意外に……速い」
ゴブリンスケルトンはもっと動きが遅かった。
ただでさえ小さい体で軽い骨、それがノロノロとはいわないが普通の速さだとただの雑魚だった。
今回の骨は大きさこそ違うが、鎧と剣の分、さらに動きが遅いと思い込んでいたが、そのあたりはさすがボスということなのだろう。
牽制のつもりで振り払ったナタが敵の攻撃を弾いたのだから。
僕は改めて体勢を立て直すと、ナタを前に構えてボスに相対する。
ボス部屋は円形、直径で10m前後だろうか……室内は空っぽで、入ってきた扉以外に特筆すべきものは無い。
ただ、部屋全体が明るいので敵の動きは見やすいのが救いか……
一応試してみる。
「電波!」
発動したことが体感でわかるが、しかし敵の姿に変化はない。
やっぱり、スケルトンに効かないのは変わらないか……
もしかしてゴーストの性質をもったスケルトンとかが世の中にいるのならば効果があったかもしれないが、残念ながら目の前のは純血のスケルトンのようだ……血が流れる肉は無いが……
「……考えうる限り相性最悪だよね」
今の僕の戦力でいえば、ナタでの攻撃以外は有効ではない。
そして、草刈り用のナタは敵の剣に比べて短い。
錆びの浮いた剣だったら切れ味など無いに等しいから、むしろバットのほうが打ち合えたかもしれない。
そういう意味では、エリスのアドバイスは的確だった。
通販で適当なバットを手に入れてから来ればよかった。
庭の農作業用の物置を探せばもっと長物もあったかもしれない。
いろいろな後悔が頭をよぎるが、まずは今この時を乗り切ることに集中しよう。
僕はナタの握りを確かめ、神経を集中させる。
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