第13話 うなれ、僕のスキル
「とりゃ……っと、危ない、ていっ!」
それから僕の快進撃(≒弱い者いじめ)が続いた。
さすがに1体だけで出てくる時ばかりではなく、2体、時には3体が出てくることがあったが、一振りで吹き飛ばされる軽い骨なんて敵ではなかった。
ひと段落したときエリスが話しかけてきた。
『ねえ……』
「なに?」
『スキル使わないの?』
「あ、忘れてた……でも、今更必要?」
あまりにも簡単に敵が倒せるので、必要性を感じない。
『こんなショボいダンジョンの最弱の敵相手に通用したからといって、それがこの亜s気も通用するわけないじゃない。いいから、次はスキルで倒すこと、いいね?』
「……わかったよ」
なるほど……確かにそうかもしれない。
思い当たることがある。
接近戦で敵を倒す人は、最前線でもそんなにいないということを、前に父さんが言っていたのを覚えている。
もちろん、素手でモンスターに対するわけではないが、それを防御やけん制に使って、決め手はスキルだというタイプが多いらしい。
これは、そもそも現代日本人が接近戦で敵を倒すことに不慣れなこともあるだろう。もしかすると未来には接近戦が流行するかもしれないが、今のところはそうではない。
『来たよ!』
考えながら歩いていたので、エリスに敵の接近を教えてもらうことになった。
今回は例のゴブリンスケルトン3体。
僕は……とりあえずナタの刀身を斜めに構えて攻撃に備える。
えっと……スキルは……
考えてみればスキルを能動的に使うのは初めてだ。
こんなことなら壁に向かって空撃ちしておけばよかった。
でも知識としては知っている。
慣れれば自在らしいが、初心者向きなのはスキルの名前を発音すること。
「……電波!」
気合を入れて声を出すのには向いているとはいいがたいスキル名だ。
これが電撃、とか火炎、とかだったらかっこよかったのに……
体の中から何かの力が抜けていくのを感じる。
一瞬ふらつきそうになりながらスキルの行く先を見る。
とはいえ、現象としては見えない。火炎や電撃とは違うのだ。
スキルの力を受けた真ん中のゴブリンスケルトンは……そのままだった。
「あれ?」
『失敗? ともかく反撃来るよ、注意して!』
そして結局いつものようにナタで3体のスケルトンの相手をし、危なげなく勝利する。
造園が来ないことを確認して、エリスの方に向き直る。
「全然効果ないんだけど?」
『おかしいわね……』
「なんか強いって言ってたよね?」
『確かそのはずなんだけど……やだ、他のと間違えたのかしら?』
「バーンとやればいいとか言ってなかった?」
『そのはずなのよ……ファーストスキルの仕様は……』
うーん……女神にもわからないのか……
スキルの発動に失敗?
いや、確かに発動した感じはある。
魔力的な何かを消費した感触はあったのだ。
なお、この魔力的な何かの残量を測定する機器はあるらしいが、リアルタイムで表示するステータス表示みたいなものは実現していない。
前に母さんがその開発研究に一時関わっていたという話を実家にいたころの雑談で聞いたことがあるが、まだ製品化できるめどが立っていないらしい。
『前に見せてもらったときはちゃんとスライムがバーンって爆発してたと思ったんだけど……』
「スライム?」
モンスターのスライムは、創作ではモチモチしたのとドロドロしたのと2通りあるが、ダンジョン内ではモチモチの方だ。
わらび餅とか水まんじゅうみたいなものがずりずり這っていて、跳び上がって攻撃してくるらしい。
そんなスライムがバーン……あ、もしかして?
「電子レンジみたいなものかな?」
『ああ、そうそう、それをイメージしたって言っていたよ。スキル担当が』
「そうだとすると……なるほど、相性が最悪だったみたいだね」
『どういうこと?』
女神が電子レンジで物が温まる仕組みを知らなくてもしょうがないと思うが、下手をすると普通の高校一年生でも理解していないかもしれない。
だけど、僕は学者のお母さんの息子で、科学にもそれなりに興味があるので知っている。
バーン、で連想したのは電子レンジでゆで卵を温めすぎて破裂する動画を見たからだ。
「電子レンジが温まるのって水分が必要なんだよ。だから乾いたものは温まらない」
『へえー、そうなんだ……』
乾燥した骨であり、筋肉も脂肪も無いスケルトンに対しては、有効ではなかったということだろう。
逆に考えれば肉のあるゴブリンであれば有効だろうし、乾燥している敵なんてそんなにいないはずだ。
であれば、このスキルも出番は……きっとあるんだろう……
*****
「あ、ちょっと違う」
通路を少し進むと、またちょっと洞窟の幅が広がり、そして今度は墓石の代わりに……
『なにこれ?』
「卒塔婆と提灯かあ……」
今度は天井からではなく、左右の壁から卒塔婆が無数に生えていて、ところどころの卒塔婆に提灯がぶら下がって淡い光を広げている。
幅が広がったが、その広がった幅を利用しようとすると卒塔婆が刺さるので、結局使えるスペースは前と変わらないように見える。
『上級のダンジョンだったら、これが槍だったかもね』
「それは怖いな……」
『あ、あと様子が変わったということはモンスターも切り替わるはずよ。注意してね』
「うん、わかった」
さっきまでのように天井に気を付ける必要はないが、その分左右が気になるので、できるだけ真ん中を進む。『この端わたるべからず』な気分。
そして、その敵が唐突に現れる。
ボウッ、ボウゥ
左右の提灯の中から火の玉のようなものが音を立てて飛び出してくる。
『ウィスプ、幽霊系。カナメ、スキルを……』
「電波!」
先に出てきた方にめがけて、僕はスキルを発動する。
すると、ゴウッっと一瞬火の玉が膨れ上がって、そのまま跡形もなく消滅した。
『右からくるよ!』
もちろん視界の端にはとらえている。
だけど思ったより動きが速い。
僕はこっちの方が速いとナタで残りのウィスプを迎撃する。
だけど……
「ええっ⁉」
ウィスプはすり抜けて僕の腹に飛び込んでくる。
熱い。
僕はとっさに後ろに倒れこむ。
頭上に僕を見失ったかのように漂うウィスプ。
「電波ぁ!」
僕はその隙を逃さずスキルで敵を倒す。
はあ……危なかった。
ぶつかった、と思った腹のあたりを探ると、服は燃えていない。
実際にはぶつかるまではいかなかったようだ。
『幽霊系って言ったじゃない……』
「そうだった。油断したよ……」
残念ながら覗き込んでくれるエリスにも実体がないので、起き上がるのに手を借りるわけにもいかない。
僕は気を引き締めながら立ち上がるのだった。
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