第4話 ダンジョンに入る

「ここかあ」

「でけー」

「怖そうな人が多いね」


 ダンジョンの入口は、危ないので子供は近づけない。

 世の中にはたくさんのダンジョンがある。

 日本では重要ダンジョン2か所、一般ダンジョン24か所、野良ダンジョン153か所がされている。

 そして普段は人がいない野良ダンジョンを除く、重要・一般ダンジョンはなので、入口に近寄ることはできない。

 女神によってもたらされたダンジョンは安全で、モンスターが外に出てくることはない。

 だから、危ないのはダンジョンから出てくるモンスターではなく、ダンジョンから帰ってくる人間だ。

 だから、帰還した人間は体内に残るダンジョンのリソースが大気中に放出されるまで30分の間、入口の施設で待機を義務付けられている。

 リソースは別名魔力とかも呼ばれており、ダンジョン内のような派手な魔法は外では微弱な効果しか得られない。

 もちろん、全く使えなくなるわけではないが、かの相模ヒロトでさえ、触ったらピリッとする程度の電撃になってしまう。スタンガンどころかせいぜい真冬の静電気ぐらいの威力だそうだ。


 そんなわけで、重要・一般ダンジョン、これらを総称して管理ダンジョンというが、その周辺には帰還者を待機させるための施設があるのが普通であって、事故を防ぐために頑丈に、そして大きく作られているのが普通だ。

 

 ここは東京の市部にある一般ダンジョンで、東京には重要ダンジョンの一つがあり、一般ダンジョンも3つあるため訪問者は分散されているはずだがそれでも巨大だ。

 僕たち3人は、その巨大さに比べて小さく、混雑する入口を抜け、『新規』と札が上がっている受付に向かった。

 首都圏で人口が多いため、窓口も行列だったが、列の進みは早い。


「はい、次の方、書類を……」


 僕たちがあらかじめ準備をしていた書類を提出すると、受付の人は慣れた手つきで確認してハンコを押し、書類を返却してくれる。


「じゃあ、こっちでお待ちください、人数がそろったら係員がお連れします」


 そういわれて脇の待合室を示された。


「自由に入っていいわけじゃないのか」とクニオ。

「ほら、今日は奥まで行っちゃいけないし……」

「ゲーム機持ってきたらよかったね」

「それは動かなくなるだけじゃないかな」

「あ、そうか」


 中では電子機器が動かない。

 当然スマホやゲーム機は、壊れるわけではないが機能しない。念のため電源は落とすようには言われる。

 そんなことを話しながら待合室に入ると、そこには同世代の先客が5人いた。

 そして、しわって待っていると続々と同じ中三体験会の参加者がやってくる。

 12月は3か月分が集中するので、ほかの月に比べると多いからだろう。

 狭い待合室はたちまちいっぱいになった。


「はーい、じゃあ今から中に入りますので荷物を持ってついてきてください」


 若い女性職員の声が聞こえたので、僕たちは立ち上がり、皆に続いて部屋を出る。


「あんまり待たなかったね」

「そうだね」


 そんなことをダイスケと話しながら、僕らはぞろぞろと行列をなしてダンジョン入口へと進む。

 おっと、突然列が止まって危うく前の人にぶつかりそうになる。


「はい、じゃあ今から皆さんに守ってほしいことを説明します……」


 先導してくれている職員の人が、ここで説明を始めるようだった。


「……まず、係員の人、この腕章をしている人のいうことはちゃんと聞きましょう。いうことを聞かない人は、最悪の場合、強制的に外に出されて帰ってもらうことになります」


 そうなったら大変だ。

 中3の体験会は今回が最後。

 来月に回されると高校入試も近くなるし、最悪来年一学年下に交じっての体験会になる。それに、親や学校からも怒られるだろうし、良いことはないだろう。


「中に入ったら、専用の場所があります。これは義務で入って座っている人とは別の場所なので注意してください。近くにトイレもありますが、1つしかないので譲り合って仲良く利用してください。最後に、能力を得ても勝手に使用しないように。能力の使用はダンジョンの法律が適用されるため、ただのいたずらだと思っていても重い罰が課されることがあります。最悪は警察に捕まって牢屋に入ることになります」


 最後の言葉は脅しだろうが、雰囲気的にはみんなの顔色が変わったので有効だったのだろう。

 そもそもファーストスキルが発動型だった場合は練習しないとなかなか発動しないし、武器の扱いなどはそのカテゴリーの武器を持っていない限り発動しない。

 敏捷や防御などは生身でも発動するだろうが、攻撃力が無いのでファーストスキルの対象外だ。

 以上は両親からの情報だ。


「はい、じゃあ行きます」


 そして僕らは始めてダンジョンに入る。


「うわ、ほんとに洞窟だ」

「意外とあったかい」

「すごく広いね」


 一歩入ると、そこは大きな空間だった。

 これはあらかじめ女神がそう設定して作ったからなのだが、その広い空間の奥に先に進む暗い道が見える。手前の広い空間にはいたるところにLEDランタンの街灯が掲げられ、明るくなっている。

 奥の道までまっすぐは踏み固められた土の道があるが、その左右にはブルーシートが一面に敷き詰められており多くの人が座り込んで読書したりカードゲームをしたり、中には横になって昼寝をしている人もいた。

 ダンジョン休の日は有給で4時間ここに滞在し、外で30分の待機時間。

 朝から入れば昼からは自由な休みとなるので、みんな比較的喜んでダンジョンに来ているのだ。

 中には母さんのように、仕事が進まなくなるから嫌だと言っている少数派もいるが……


 そして僕らは紐で区切られて『体験会区画、部外者は入らないでください』と書かれたブルーシートに案内され、そこで各自場所をとって座り込むことになる。


 僕たちの体験会は順調だった、そこまでは……

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