第3話 彼にとってのその日

「おっ、カナメ、遅いぞ」

「ごめんごめん」

「先に行こうかって思ったじゃねえか」


 仲の良い友人、クニオ、ダイスケと待ち合わせしていたのは駅だった。

 なお、僕のフルネームは宗崎そうざきカナメ、友人はそれぞれ柴山しばやまクニオ、工藤くどうダイスケだ。

 本当はカナメも要という字なのだが、折からの難読キラキラネーム対策で下の名前はカタカナで書くのが普通になっている。

 父さんに見せてもらったが、運転免許証ですらそうなっているのだ。


 さて、15歳を前にして、ダンジョンに入る体験会というのが中三の学校行事となって三年目。ついに僕たちの番になった。

 全員一斉に行われるわけではない。

4月生まれが12月まで待つ、というのではいくらダンジョンが多くても集中しすぎて迷惑だ。

基本的には次の月に誕生日がある生徒ごとに分散して行くことになる。

 とはいえ、高校受験真っ最中の年明けにそんな行事を入れるわけにもいかない。

1月生まれのクニオ、2月生まれの僕とダイスケはまとめて12月体験会組となったわけだ。


 ただでさえ平日の昼間に学校を休んで外を出歩けるというのは胸躍ることであったが、それにもましてダンジョンで与えられるファーストスキルというのが楽しみだった。

 ファーストスキルとは、女神が個人に与えてくれる最大の恩恵といってもよい。

 もちろん、後で手に入ったスキルを主軸にしてダンジョンで戦うものはいくらでもいるが、それでも最初で何の努力もなく何らかの能力が与えられるというのはありがたい。


「カナメはどんなスキルだと思う? やっぱり魔法とか?」

「なんでもいいよ。父さんも母さんも中と外で頑張ってるけど、どっちもいいなって思うし……クニオの方こそどうなの?」

「俺はやっぱり、電撃かな」

「かっこいいもんな、電撃の勇者」


 ダイスケが言うところの『電撃の勇者』というのは相模さがみヒロトという有名冒険者だ。

 国内では最強と呼ばれており、直接雷撃を飛ばしたり、拳銃型の道具を使って弾を火薬ではなく能力でレールガン的に飛ばしたりで派手な立ち回りをするので人気だ。

 ダンジョン内ではスマホやドローンどころか電子機器はすべて使えない。

 電気機器ではないことに注意が必要だ。

 どうもデジタル回路がうまく動かないらしく、アナログな電気回路で組まれた古い仕組みの機器なら動く。

 そんなわけでダンジョンの中の映像というのはアナログの映写機で撮られた映像を外でデジタル処理したものが動画サイトに上がっているのだ。

手間がかかるので猫も杓子も動画をあげるというわけにはいかず、必然有名人のものしか出回っていないのだが、その中で一番人気が相模ヒロトなのだ。

 片手に剣を持ち、もう片手に銃を持ち、素早い動きで多数の敵を仕留めていくその姿は実際かっこいい。


「俺はやっぱり大剣とかがいいな」


 ダイスケは体が大きく、力持ちだ。

 成績の方は良くないので、将来はダンジョンの攻略を本業にしようと考えているらしい。

 入口近くでブルーシートを敷いて座り込んでいる、最低限の義務でダンジョンに来ている人はそれだけでは収入は得られない。

 積極的に先に進み、モンスターを倒し、多くのリソースを物品の形で持って帰る『攻略者』になって初めて収入になる。

 それもアルバイト、副業程度の収入でやるエンジョイ派、装備や準備を入念にやる本業派がいて、本業派の中にはスポーツ選手並みの高収入を得るものもいる。


 僕の両親も言ってしまえば本業派になるのだろうか。

 父はもともとダンジョン出現以前から専業の荷物運びポーターで、秘境の探検や各種調査などで活躍していたらしい。

 ダンジョン出現以降はより深部に潜るチームに荷物運び兼ナビゲーターとして参加していて、かなり収入は上がったということだ。

 母は学者だ。

 専門は……なんだろう?

 もともと小さいころから天才で、アメリカの大学で複数の博士号を得た。

 それも日本でいうところの(向こうではそういう言い方はしないらしい)文系、理系にまたがり多くの業績を上げているらしい。

 ダンジョン出現以降は、ダンジョン自身の研究、装備や得られた物品の研究などで国の研究所で忙しくしているらしい。

 給料はそれほどでもないらしいが、付随して特許や知的財産がたくさん得られたため、実は大金持ちの端くれであった。


 なお、先ほどの電撃が欲しいといっていたクニオだが、彼は流行に敏感で、若干流されやすいところがある。

 夏終わりには、炎の魔法が良いといっていたし、1学期には確か双剣が良いとか言っていた気がする。

 だが、ともかく彼も目指すところは本業派ということになるだろう。


「とにかく、少々外れでもこの3人なら大丈夫さ」


 クニオが言うように、僕たち3人は最低でも高校3年間は一緒にダンジョンを攻略しようと約束しあっていた。


「そうだね。ファーストスキルは戦えるものしか出ないって聞いているし……」


 僕はあらかじめ調べてあったのでそう返す。

 よくダンジョンもの創作であるような鑑定とかアイテムボックスとかは現実でも希少だし、テレポートなんていうのはまだ確認されていない。

 そうしたレアものスキルをいきなり最初に得られるというのは実際にあったらすごいのだろうが、どれも攻撃スキルではない。

 ファーストスキルは、少なくともその能力を発揮して敵を倒すことができるものしか得られないことが知られている。

 だから、何のスキルを得られるにしても戦えないことはないし、実際ずっと研究所にこもっている母でさえ、ファーストスキルは槍だったらしい。

 なお、当時使っていた槍は家の階段下の物置でほこりをかぶっている。


 僕たちは、そんなことを話しながら電車でダンジョンに向かうのだった。

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