第2話 ハンモックの午後
朝、窓を開けると、ぬるい風がカーテンを揺らした。庭には赤いハイビスカスがいくつも咲いていて、真一はその鮮やかさに目を細めた。
この家を見つけたのは、まるで偶然のようだった。移住を決めた後、特に深く考えることもなく、不動産サイトで目についた物件に直観と勢いで決めてしまった。それがこんなにも満足のいく家になるとは、当時の真一には想像もできなかった。青い海が見下ろせる立地、庭には手入れが行き届いた植物たちが生い茂り、静けさと穏やかさに包まれている。東京の喧騒を忘れるには、これ以上ない場所だった。
コーヒーを片手に縁側に腰を下ろし、見下ろすと、眼下には青い海が広がっている。体の奥からじんわりと湧き上がる解放感に、自然と呼吸が深くなった。ここでなら、生き直せるかもしれない――そんな満足感が、心に静かに染み渡っていく。
昼前になると、真一は自転車に乗って集落の小さな商店へ向かう。道端にはヤギが放し飼いにされていて、ちらりとこちらを見てはまた草を食んでいる。車もほとんど通らない道をのんびりと走り抜け、木陰に自転車を止めた。
商店の店主に声をかけ、冷えたさんぴん茶を買う。レジ横に並ぶ素朴な天ぷらを勧められ、「揚げたてだよ」という声に惹かれて一つ手に取る。サクッと噛んだ瞬間、真一は不意に笑みをこぼした。こんなにも静かで、ゆっくりとした時間が流れる場所が、今の自分には必要だったのだ。
こうして、真一の沖縄での新たな暮らしは始まった。
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