第5話 ターゲットに接触したら、謎の紳士に接触された

と、まぁ有能な執事のおかげで、いつも仕事がやりやすいわ。

ゼノンがいたから、あれを仕事に出来たのよ。


元諜報員のスキルは凄いわね。

どんな人の情報も完璧に調べ上げてしまうのだもの。


さて今回のターゲットは何股もしている上に、弱い女性には暴力で支配するタイプというTHE☆クズ男よ。


そういうタイプには、線の細い可憐な令嬢+病弱設定を付けましょう!

さぁ早速、明日のパーティーから接触を始めるわよ。


翌日、ジョルジュが参加するパーティーに変装した私は潜入する。


パーティーは誰でも参加できるものと、招待状がないとダメなものがあるの。招待状が必要な場合は、依頼人かゼノンに手配してもらっているわ。あぁ、今回は招待状はいらないから誰の手も煩わせていないわよ。


あ、いたわ! ジョルジュよ!


私は楚々と近づくと、ジョルジュに視界に入った事を確認する。

そして「あっ」と小さく声を上げて、よろめいた。


「おや、大丈夫ですか?」

「あぁ、すみません。急に眩暈が……」


すぐさまジョルジュが駆け寄り、私の身体を支える。


よし、食いつきましたわ!


「それはいけない。あぁ、あそこのベンチで休みましょう」


ジョルジュの提案に乗り、私は心許ない足取りでベンチへと移動する。


「誰か呼びましょうか」

「いえ、少し休めば治まりますから」

「そうですか? それなら、何か飲み物を持ってきましょうか」

「いえ、それより心細いので傍にいていただけると……あ、申し訳ありません。ご迷惑ですよね」


はい、弱々しく甘えてからの~上目遣いですわ!


ジョルジュはグッと堪えるように目を見張った。


効いてますわ、効いてますわよ!


「迷惑なんて事ありませんよ。お許しいただけるのなら、僕に介抱させてください」

「まぁ、ありがとうございます。何て、お優しい方なのでしょう。あっ」


クラッと眩暈に襲われた体(てい)を装って、私はジョルジュの身体に凭れ掛かる。

ジョルジュは抱き止めると、支えるように手を添えた。


「申し訳ありません……少し、このまま……」

「大丈夫ですよ。落ち着くまで楽にしていてください」


私は、そのままジョルジュに身体を預けた。


あぁ普通に見れば、何て紳士な対応でしょうか。

ジョルジュの本性を知らなければ、コロッと落ちてしまうところですわよ。


この優男っぷりに、沢山の令嬢が騙されてしまうのだわ。

そして毒牙にかかってしまうのね! あぁ嫌だわ、嫌だわ。


さて、そろそろ頃合いかしらね。


私は、ふいに身体を起こした。


「ありがとうございました。もう大丈夫です」

「そうですか? まだ顔色が悪いようですが」

「えぇ、後は一人で平気です。これ以上、貴方様のお時間をいただく訳にまいりませんわ」

「気になさらないでください。僕は望んで、こうしているのですから」

「まぁ、お優しい。助けてくださったのが、貴方様で良かったですわ。あ、申し遅れました。私、マイラと申します」

「僕はジョルジュといいます。お見知りおきを」


ここまで来たら、後は私のテリトリーに引き込むだけよ!


そこから話を広げて、予め調べておいたジョルジュの趣味を好きだと告げれば、私を見る目が色付いていくわ。


「まさかジョルジュ様も、お好きとは思いませんでしたわ」

「えぇ、僕もです。マイラ嬢とは話が合いますね」


よし、そろそろ頃合いでしょう。こちらへ興味を向けられたことだし、今日はこの辺で撤収よ。えぇ、やり過ぎはダメなのよ。


「ジョルジュ様、ありがとうございました。すっかり良くなりましたわ」

「あぁ、それは良かった」

「それでは、私はこの辺で」

「もう行ってしまわれるのですか? もっと、お話していたかったのですが。あ、いえ、体調が優れないのですから、早くお帰りになった方がいいですね」

「ありがとうございます。私も、もっとジョルジュ様とお話していたいですわ」

「それなら! また会っていただけますか?」

「えぇ、もちろんですわ」


私は笑顔を向けた。

そして次のパーティーで会う約束をして、ジョルジュと別れる。


ベンチから離れて会場を後にしようとしていた時、すれ違いざま誰かに声を掛けられた。


「ほぅ、今回は彼が……レディ、彼には気を付けた方がいい」

「えっ?」


見れば、高身長で躯体が良く、顔も声もイケてる紳士が立っていた。

声の主はそれだけ言うと去って行く。


何なの、今のは。


何やら不穏な気配を感じて、私は馬車へと急いだ。


外ではゼノンが馬車と共に待ち構えていた。私は、サッと馬車に乗り込む。御者席に着いたゼノンは、小窓を開けた。


「お嬢、首尾は?」

「掴みは上々よ!」

「いいねぇ」

「あと、知らない人に声を掛けられたわ」

「あ? 何て言われたんだ?」

「ジョルジュには気を付けなさいって」

「ふ~ん。そいつは少し気になるな。ジョルジュの本性を知っていての忠告ならいいんだが」

「えぇ、私も少し引っかかっているわ。だから、慎重にいくわよ」

「了解」


馬車は念入りに回り道をしてから、帰宅の途についた。


それから何度かジョルジュと接触を図ったけど、私に忠告してきた紳士と会う事はなかった。その所為か、私は紳士の存在をスッカリ忘れてしまったのよ。

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