第11話
転売の成功を噂で聞きつけたのか、ある日、俺のもとに一通の手紙が届いた。
差出人は「クリスティアーノ伯爵家」とある。
王都でも名の知れた名門貴族の一つらしい。
「へえ、いきなり貴族からお声がかかるなんて、俺も偉くなったもんだね」
そう呟きながら、手紙を開いてみると、そこには「ぜひ我が屋敷へ来訪願いたい」と書かれている。
どうやら商談があるらしい。
「貴族相手の取引って……前世の営業経験からしても、なかなか一筋縄じゃいかないぞ」
「だが、ここで大きな人脈を得られれば、さらにビジネスが広がる。行くしかねえだろ?」
ガルスの言う通りだ。
貴族がどんな要求をしてくるかわからないが、俺としては断る理由はない。
さっそく指定された日時に伯爵邸を訪れることにする。
当日、俺はガルスと一緒に伯爵邸の門をくぐった。
広大な庭園と、きらびやかな洋館が目に飛び込んでくる。
庭師があちこちで花を手入れし、メイドや執事が忙しそうに駆け回っていた。
「すげえな……ここまでリッチだと、もう想像の域を超えてるぜ」
「お客さまですね。どうぞ奥の応接室へ」
現れた執事に案内され、上品な調度品の並ぶ部屋へ通される。
やがて、二十代半ばくらいに見える貴公子然とした男が姿を現した。
金髪で彫りの深い顔立ち、優雅な仕草が印象的だ。
「初めまして、リオン・トルヴァン殿。私がクリスティアーノ伯爵家の嫡男、レオン・クリスティアーノです」
「おお……いかにも王侯貴族って感じだね。初めまして、リオンだ。今日はどんな用件かな?」
「早速ですが、お聞きしておりますよ。あなたは『値切り』という非常に興味深いスキルをお持ちとか。先日、闇市でルミナイトを買いつけ、王都で転売して利益を得たとか?」
さすが情報が早い。
貴族のネットワークをなめてはいけないということだろう。
「まさにそのとおり。俺は価値あるものを安く仕入れて、それをうまく売るのが得意なんだ」
「そこでお願いがある。実は当家では、ある高級な魔導具を探しているのです。しかし、王都ではあまり出回っておりませんし、値段も高額。あなたのスキルで入手していただけないでしょうか?」
「なるほど、リクエストが魔導具か。具体的にはどんなもの?」
「『星の雫のランプ』という、希少な灯火具です。ささやかな魔力を放ち、部屋を星空のように彩る効果があると言われています。夫人への贈り物にぴったりでしょう?」
「ロマンチックだね。だが聞いたことないアイテムだ。どこかで見つけなきゃならないな」
俺は顎に手を当て、考え込む。
こんなレアなアイテム、普通の市場には出回らないはず。
また闇ルートになるのか、それとも冒険者の手でしか入らない特殊地域にあるのか?
「報酬は弾ませていただきますよ。当然、失敗した場合でも対価はある程度お支払いしましょう」
「オーケー、ビッグディールの匂いがプンプンするぜ。やってやろうじゃないか」
「ふふ、頼もしいお方です。では、ぜひよろしくお願いしますね」
こうして俺は貴族からの依頼を受けることになった。
星の雫のランプ……次なるレア物の匂いがする。
俺はワクワクを抑えきれないまま、伯爵邸を後にするのだった。
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