第9話

 翌朝、宿の一室でルミナイトの結晶を確認する。

 光に透かすと、青白い輝きがキラキラ反射する。

 これを冒険者たちが装備品に仕込めば、魔力ブーストが期待できるらしい。


「ようし、こいつを使って防具や剣を作れば、ガルスの戦闘力もさらにアップしそうだな」


「そうだな。ただ、おれ一人で全部を使うのはもったいない。余った分は売るなり加工するなり、お前の好きにしてくれ」


「サンキュー。それじゃ、まともな鍛冶屋を探して加工するか、あるいは売りに出して資金に変えるか……どっちがいいんだろう?」


 考え込む俺に、ガルスは自慢げに胸を張る。


「実はおれ、知り合いの鍛冶職人がいるんだ。腕は確かだが、どうにも口が悪くて嫌われがちでな。けど、品質はピカイチだから一度会ってみたらどうだ?」


「いいね、腕が確かなら試す価値ありだ。俺はいいものを見極めるのにも自信があるし」


 そう決まり、俺たちは朝食を済ませるとさっそく出発する。

 ガルスの知り合いという鍛冶職人は、王都の北側の外れに工房を構えていた。

 そこは煤やら金属の匂いやらが混じり合い、職人の息遣いが聞こえる実に無骨な空間だった。


「おおガルス、久しぶりだな。ようやくお前もまともな武器を欲しがるようになったのか?」


 鍛冶職人の名はグレッグ。

 どっしり太った体格で、腕には剛力を物語る太い筋肉が浮き出ている。

 火を操る鍛冶屋にはうってつけの風貌だ。


「いや、武器はもちろんだが、その前に素材をどうにかしてほしいんだ。こいつがルミナイトだ」


「ほー……こりゃ本物だな。よくこんなに手に入れたな。まさか王宮から盗んだんじゃないだろうな?」


「ハハ、違う違う。きちんと買ったんだよ、俺の値切りスキルでさ!」


 グレッグは疑い深そうに俺の顔を見るが、やがて鼻で笑った。


「ほー、坊主が商人ってわけか。ガルスと組むあたり、なかなか肝が据わってんだろう。で、これをどうしたい?」


「ガルス用に剣か鎧を作ってほしい。それと、残りは売りやすいように加工して、小さな玉か板状にしてほしいんだ。そっちのほうが流通させやすいだろ?」


「なるほどな。そういうのを『商品価値を高める』ってやつか。あんた、なかなか商人してるじゃねえか」


 グレッグが笑いながら工房の奥へ入っていく。

 俺たちはそのまま待っていると、コンコンと金槌の音が響き始めた。


「すぐには終わらねえだろうが、いいものを作ってやる。金は高くつくぜ?」


「そいつはもちろんだ。手間を惜しんでいい商品はできやしない。むしろ、しっかり払わせてもらうさ」


「へっ、気に入った。おれも腕によりをかけて作るとするかな」


 そのやりとりを聞いて、ガルスが肩をすくめて笑う。


「お前、本当に商人っぽくなってきたな。交渉だけじゃなくて、職人のモチベーションも上手に引き出すんだから」


「ハハ、前世じゃ営業でもっと厳しい客相手にしてきたからな。こっちはだいぶ楽だよ」


 俺はルミナイトに目をやりながら、今後の展開を想像する。

 これを高く売れれば、大きな資金が手に入り、さらなる冒険的な買い付けに挑戦できる。

 商人としての名声も上がれば、信用も増すし、取り扱い商品も増えていくだろう。


「リオン、お前なら必ず大成するさ。あの闇市であんな交渉をやってのけたんだ。これからも頼むぜ」


「オーケー、任せとけ。俺は世界一の商人になるつもりだから、こんなところで終わらないさ」

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