第8話

 案内された先は、地下に続く階段だった。

 そこを降りると、広い空間にテーブルや椅子が並び、いかにも怪しげな商人やならず者が集まっていた。


「うわぁ、思ってたよりデンジャラスな場所だな」


「ま、こいつらは金の匂いに敏感な連中さ。余計なことしなきゃ襲ってはこないはずだ」


 ガルスが大剣をちらつかせるように見せつつ、周囲の視線を牽制する。

 俺はなるべく堂々と胸を張り、「ビビってないぜ」とアピールする。


「この奥にいるバトルって男が、この辺のボスでな。何でも裏取引を一手に仕切ってるらしい」


 眼帯の男がそう言いながら、ひときわ頑丈そうな扉を開ける。

 そこには筋骨隆々の男が腰を下ろし、テーブルに足を乗せてこちらを見下ろしていた。

 髪は剃り込みが入り、体中にタトゥーが刻まれている。


「お前らがルミナイトを探してるって? ハッ、面白え。正規のルートじゃ到底手に入らねえ代物を、どうやって買おうってんだ?」


「そりゃこっちのセリフ。だけどあんたが持ってるなら、俺が値切り倒して買うまでだろ?」


 俺は臆せずに口を開く。

 このバトルとかいう男が敵なら、遠慮はいらない。

 値切りスキルで、とにかくこっちのペースに巻き込んでやる。


「ケッ、おもしれえ坊主だな。買う金があんのか?」


「金はある。しかも、あんたが納得するだけの話を用意できるぜ」


 そう言うと、バトルはニヤリと笑い、部下に何か指示を出した。

 すると部下が黒い箱を持ってきて、テーブルの上にドサリと置く。


「ふふ、こいつがルミナイトだ。ただし、質はまちまちだぜ。いい鉱石はもともと王宮に流れていく。おれたちはその抜け道で仕入れたやつだ」


「なるほどね。そこそこ傷がついてたり、不純物が混ざってるってことか?」


「詳しいな。まあそうだ。だが、魔力を帯びやすいって性質はちゃんと残ってる。冒険者の強化装備には十分使える代物だ」


「そいつはありがたい。じゃあ、早速値段を聞かせてもらおうか?」


 バトルが指をパチンと鳴らすと、部下が紙切れを取り出し、金額が書かれたのを突きつけてくる。


「……でけえ数だな。これはおいそれと払える値段じゃねえぞ」


「ふん、ここは闇市だ。安売りなんぞするわけがないだろ?」


 バトルの声は低くて威圧的。

 このままじゃ値切りどころか、脅されて金を巻き上げられかねない。


「だけどな、あんたらもこの在庫、ずっと抱えてても困るだろ? どのみち正規ルートには流せないし、長期保存が難しいなら、さっさと売るほうが得策じゃないのか?」


 俺は値切りスキルで相手の懐に飛び込みつつ、弱点を突くように話を展開する。

 さらに背後から感じるスキルの力で、言葉に妙な説得力が乗るのがわかる。


「ふん……まあ、確かに時間が経つほど価値は下がるかもしれない。保管にも手間がかかるしな」


「だったら俺に売ってくれ。ほら、このくらいの金額で……」


 そう言いかけた途端、バトルはガツンとテーブルを拳で叩いた。


「おい、舐めんじゃねえぞ。そんなしょぼい金額じゃ足りねえんだよ!」


 部下たちがゾロゾロと身構える。

 俺は汗がにじむのを感じた。

 このまま強引にやられたらやばい。


 だが、ガルスが一歩前に出ると、大剣の柄に手をかけて低く構えた。


「チッ、俺をナメるなよ。リオンの交渉を邪魔するなら、ここで大立ち回りになるぞ」


 戦闘をちらつかせながら、俺はさらに畳みかける。


「バトル、あんたも商人ならわかるだろ。俺の提示した金額が悪くない線だってことをさ。ここで強引に奪うより、ちゃんと売るほうがリスクは小さい」


「……チッ、わかったよ。いいだろう。ただし、もう少し上乗せしろ。おれも手下を養わなきゃならねえんでな」


「オーケー、そこは譲るさ。ディール成立だ!」


 こうして闇市での取引は、俺の値切りスキルとガルスの威圧で、どうにかまとまった。

 それでも大金が飛んだけど、正規ルートよりは大幅に安く手に入ったはずだ。


 その夜、宿に戻ってから俺とガルスは互いの健闘を称えあった。


「リオン、お前すげえな。あの状況でもビビらず値切りを続けるんだから」


「いやいや、背中に冷や汗かいてたぜ。でも、最高にエキサイティングだった。これだから商売はやめられない!」

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