第5話

 王都へ行くには、それなりの準備が必要だ。

 馬車で向かうとしても、途中には山賊や魔物が出ると聞く。

 そこで、冒険者のガルスが護衛として同行してくれるのは心強い。


「リオン、出発の前に俺の店の金庫から予算を持っていけ。必要経費もあるだろうし、まさかの事態に備えておけ」


 父さんが革袋に詰めた金貨を手渡してくれた。

 父さんにしてはかなり大胆な額を用意してくれたらしく、感謝しかない。


「さんきゅー! 必ず成功させて、倍にして戻ってくるからさ」


 そう言いつつも、実際はこの金貨以上に高額を要求される可能性は大いにある。

 それをどこまで値切りできるかは、俺の腕次第だ。


「へへ、なんだか胸が騒ぐぜ。これがビッグディールってやつか」


 ガルスは既に馬車を用意して待っている。

 馬車の荷台にはいくつか物資が乗っており、途中のキャンプでも困らないように準備万端だ。


「リオン、今日から二日ほど道を進む。その間、魔物に遭遇するかもしれん。おれがやつらをぶっ倒すから、お前はとにかく馬車を守れ」


「オーケー、そこは頼りにしてる。戦闘はアメリカンじゃないからな、ってか俺は商人なんで」


 そう言って笑うと、ガルスは苦笑いしたあと、馬車を走らせていく。


「そういや、なんでお前はそんな変な口調なんだ? なんか独特だよな」


「前世の記憶ってやつでさ、故郷がちょいと遠いところだったんだよね」


 嘘ではない。

 俺は日本からの転生者だけど、ハリウッド映画で憧れてたノリをなぜか真似している。

 この異世界じゃちょっと浮いてるかもしれないけど、ま、個性だろう。


 そうこう話しているうちに、森の道がどんどん険しくなる。

 木々が生い茂り、視界が狭い。

 こうなると、やっぱり魔物の出現率が高まるらしい。


「ガルス、用心してくれ。ちょっとイヤな予感がする」


「お、早速か? まあどんと来い。おれの剣が火を噴くぜ」


 その言葉どおり、すぐに森の奥から獣のような唸り声が聞こえてきた。

 大柄な狼のような魔物が三匹、鋭い牙をむき出しにしてこちらを威嚇している。


「うわっ、こいつらやばそうだな。いちいちケンカしてるヒマはねえぞ、ガルス!」


「ほっとけ、時間の無駄だ。おれが一瞬でぶった斬る!」


 そう言うと、ガルスは馬車を降り、気迫をみなぎらせる。

 大剣を構え、魔物たちに向かって一気に突進する。


 ズバン!

 ガルスの大剣が風を切り、狼型の魔物を一刀両断。

 その瞬間にほかの二匹は大きく飛び退いたが、ガルスのフットワークは素早い。


「ふっ、悪いが相手にならねえな!」


 もう一度、横薙ぎに剣を振り抜き、二匹目もド派手に吹き飛ばす。

 最後の一匹は尻尾を巻いて逃げ出した。


「すげえ、やっぱこれがプロの冒険者か! 惚れそうだぜ」


「ハハ、口がうまいな、商人」


 こうして俺たちは森の魔物を蹴散らし、さらに王都への道を急いだ。

 俺の仕事は戦うことじゃない。

 いかに値切りで世界を動かしていくかが鍵になるんだ。

 そう考えると、早く王都につきたくてたまらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る