第3話

 次の日、俺は父さんから小さな仕事を任された。

 村の雑貨屋の主人が、薬草を大量に仕入れたいらしく、父さんの知り合いのハーブ農家に交渉してこいというのだ。


「やったぜ、ついに俺が交渉の舞台に立つ時がきたな!」


 早速、馬車に乗り込もうとした俺を、父さんがちょっと心配そうに見つめる。


「リオン、いくらスキルがあるって言っても、あんまり調子に乗るなよ。相手はベテラン農家だから、なかなか値を下げてくれないかもしれん」


「ヘイヘイ、大丈夫。ちょっと行ってくるだけだから」


 そう言って、俺はさっそうと馬車を走らせた。

 村はずれの畑の広がる丘を越えると、しもぶくれ顔のハーブ農家のオヤジさんが迎えてくれた。


「よぉ、あんたがトルヴァンの息子か? 薬草が欲しいんだって?」


「イエス! できるだけたくさん仕入れたいんだけど、どんなもんかな?」


 俺は値切りスキルを試したくて仕方がない。

 前世で培った度胸と話術でガンガン攻めるつもりだ。


「ほう……あんたまだ若いな。だが、この薬草は上質で評判がいい。値段は下げられんぞ?」


「その通り。高品質に高値がつくのは当然だ。だけど、俺の店もそんなに予算があるわけじゃない」


 ここでスキル発動、イメージは『相手を納得させるように説得する』こと。

 まるで背後から不思議な力が湧き上がるように感じる。

 そして俺は、自然と口が滑らかになっていく。


「でもさ、あなたの素晴らしい薬草を、もっと多くの人に使ってもらいたくない? 俺の店を通せば、この村から王都にまで広められるんだ。そうすれば評判もアップ、売上もさらに倍増する。そこで、ちょいと譲ってくれたらみんなハッピーだろ?」


「う、うーん……なんだか説得力があるような……」


「そうでしょ? そしたらこの値段でどうだ? 俺としては精一杯のオファーだ」


 そう言って、俺は前もって父さんから預かっていた仕入れ上限よりも、少し低めの値を提示する。

 ハーブ農家のオヤジさんは渋い顔をしながら、しかし頷きかけた。


「ま、まあいいか。リオンの言うとおり、おれの薬草がもっと広まるなら、それは悪くない話だ。いいだろう、あんたの値段で取引しよう」


「よっしゃ! サンキュー!」


 こうして俺は初めての値切りに成功した。

 俺のスキルがガチで使えると判明して、思わずガッツポーズを決める。

 ただの興奮じゃない、この勝利感はクセになりそうだ。


「いい買い物できたぜ。これでうちの店もバッチリ利益が出るんじゃない?」


 もっと大きな商売をしてみたい、そう思いながら俺は馬車を走らせ、店に戻るのだった。

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