第2話

 父さんの店は雑貨屋で、古びた町の一角に構えている。

 王国の外れの小さな村だが、農作物や家畜の取引はそれなりに盛んなようだ。

 俺はまず、この店を通じて商売のイロハを学ぶことに。


「おいリオン、今日は朝から荷降ろしだ。外に出ていって、馬車から商品を降ろしてくれ」


 父さんの呼びかけに、俺はすぐ返事する。


「オーライ、がってん承知! きっちりやらせてもらうぜ」


 店の前には荷物を積んだ馬車がやってきている。

 馬車を引いているのは大柄な男で、無精髭とむき出しの上腕がなんとも荒々しい雰囲気だ。


「ここの店主か? おれは……呼びにくいだろうから、ブルって呼んでくれ。荷を運んできたんだが、まとめて預けるぞ」


「ブルさんね。サンキューな。そんじゃ、一個ずつ降ろしてもらうぜ」


 俺は慣れない手つきながら、一生懸命に荷を下ろしていく。

 タマネギの袋や農具、木箱に詰まった薬草らしきものなど、いろんな商品が混在している。


「リオン、そっちの木箱は精密なガラス工芸らしいから、雑に扱うんじゃないぞ」


「了解だ。ハンドリングは丁寧にやる。大事な商品だからな」


 ヒャッハー! と心の中で気合いを入れながら、慎重に木箱を抱え込む。

 この日常の作業すら、俺にとっては新鮮でドキドキする。

 だが、俺のイメージしていた華やかな商売とはちょいと違う地味な作業でもある。


「うへえ、意外と重いな。だけど、いい運動になるぜ。これで筋肉もついて、マッスル商人になれるかな」


 そんな軽口を叩きながらも、しばらくは雑用をこなすだけで日が暮れていった。

 華やかな買い取りや値切りを発揮するシーンには、まだ程遠い。


 だが、夕方になって店に戻ったとき、ふと棚にあるアイテムが目に留まる。

 それは、青い光をわずかに放つ宝石のようなものだ。


「父さん、あれって何のアイテム? すんごく輝いてるじゃないか」


「お、よく気づいたな。あれは『ブルームの涙』っていう希少な魔石だ。実はお客さんからの預かり物なんだが、いつか買い手がつくかもな」


「へえ、それって高いんじゃないの? 俺が値切ったらどうなるかな?」


 あまりにも無邪気に口走ったからか、父さんは苦笑いする。


「ハハ、まだお前は見習いなんだから無理するな。あんな高級アイテム、迂闊に触ると破産確定だぞ」


「だが……チャレンジ精神は大事だろ?」


 内心、値切りスキルを使ってみたくてうずうずする俺。

 けれど、まだ本格的な商売をするには早すぎるらしい。


「よし、次は店先の掃除してこい。商売はまず掃除からだぞ」


 そう言われ、俺はモップを手に外へ出る。

 こうして俺の地味な行商修行は、まだまだ始まったばかりだが、いつか絶対に大きく花開かせる。

 俺の値切りスキルと、前世で培った度胸……絶対に無駄にはしないぜ。

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