冴えない転生商人、値切りスキルで龍の涙まで買い叩く
昼から山猫
第1話
気がついたら、俺は薄暗い藁の上で目を覚ましていた。
前世の記憶では、毎日のようにブラック企業で深夜まで営業を叩き込まれ、体力も精神も限界だったはずだ。
だが、今の俺は子どもの身体をしているらしい。
「ハロー? 誰かいないか? って、ここはどこだ?」
思わず頭を抱える。
周囲を見回すと、土壁と木の梁がむき出しの部屋に、古びたタンスと机が置かれている。
日本のアパートとは程遠い、まるで中世ファンタジーの世界だ。
「おっ、生まれたばかりなのに、いきなりしっかり喋ってるな」
ギョロリと尖った目をした中年男性が入ってきた。
ガタイがよく、頭には薄くなった髪がちょろっと残るだけ。
だが、その胸には誇らしげに革製のエプロンが掛かっている。
「やあ、マイ・ファーザー? 俺はどこで何をしてるんだ?」
言いながら、妙に流暢なこの異世界言語を操っている自分に気づく。
どうやら頭の中に、自然と馴染んでいる感じがしてならない。
「今日からお前はうちの後継ぎだ。俺の店を継いで、一流の商人になれよ」
商人。
まったく剣や魔法とは無縁の道だが、前世の営業スキルはある程度役に立つかもしれない。
そう思っていた俺は、さらに仰天の展開を迎える。
「それと、お前には珍しいスキルがあるらしい。なんだか『値切り』ってスキルで、買い物するときに相手を妙に納得させられるらしいな」
いやいや、それってすごいスキルじゃないのか?
剣や魔法よりも地味っぽいが、相手から安く買いたたけるなら、商売で無敵になれるに違いない。
「いいじゃん、それ! めちゃくちゃクールなスキルじゃない? 俺の商人ライフ、成功間違いなしって感じだろ?」
前世がブラック企業の営業マンだったからなのか、人を言葉で説得するのは嫌いじゃない。
むしろ、値切りで相手をうまく転がして、安く仕入れた商品を売りさばくなんて、夢があるじゃないか。
「まあな。だが、商人は甘い仕事じゃねえぞ。客に騙されることもあるし、命を狙われることだってある。よーく覚えておけ」
中年男性……どうやら俺の父さんらしいその人は、厳しい表情でそう言った。
しかし、俺の胸は期待と興奮でいっぱいだ。
これまでの社畜人生とは違う、まっさらな世界が目の前に広がっているんだからな。
「オーケー、気合い入れて頑張るぜ。俺の名前はリオン・トルヴァン。絶対にこの世界のNo.1商人になってやる!」
こうして俺は、異世界での人生を、商人見習いとしてスタートすることになった。
前世の苦い経験を糧に、この世界を値切りスキルで席巻してみせる。
そう固く決意して、はじめの一歩を踏み出すのだった。
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