第11話

 闇商人とのやり取りから二日後、今度は冒険者ギルドの使者という人物が工房を訪れた。

 冒険者ギルドといえば、冒険者たちの活動を支え、クエストの仲介や報酬の支払いを管理する組織。

 前に廃坑の魔物退治を依頼してきた冒険者も、このギルドの所属だったらしい。


「こんにちは。俺は冒険者ギルド本部から派遣された者です。あなたが魔鉱石の剣を作ったと聞き、ぜひ詳しいお話を伺いたくて」


「はは、俺の魔剣に興味があるなら歓迎だよ。といっても、まだ一本しか作ってないんだけどな」


「実は、冒険者ギルドとしては、優秀な鍛冶師を探しているんです。近頃、魔物が活発化し、冒険者の需要が増えているので、武器や装備の供給が追いついていないんですよ」


「なるほど。そりゃあ、腕のいい鍛冶師はギルドにとっても重要だよな」


「ええ。ですから、もしあなたが良ければ、ギルド専属の鍛冶師という形で契約しませんか? 素材の提供や、報酬、設備の援助など、いろいろ優遇措置をお出しできます」


 専属契約、悪くない話だ。

 ギルドが資金や素材を提供してくれるなら、もっと大きな武器開発もできそうだし、魔鉱石の入手ルートだって拡がるかもしれない。


「一つ聞かせてくれ。俺がギルド専属になったとして、王都の監査とか、そういうのはどうなるんだ? 俺は今、いわば国の目を付けられてる状態なんだが」


「ギルドとしては独立の組織ですので、国の監査とは直接関係ありません。ただし、国との関係が悪化すれば、ギルドとしても支援が難しくなる可能性はあります」


「なるほど。じゃあ、俺が魔剣をいっぱい作っても、国が止めにきたらギルドも助けられないってことか?」


「うっ……そこまでは言いませんが、やはり王都の許可がないと大々的に魔鉱石の武器を製造するのはリスクが大きいです。ですが、冒険者たちの要望は高いので、魔鉱石装備を作る腕のある鍛冶師を求めているのも事実です」


 つまり、ギルドとしては俺の力が欲しいけど、政治的なリスクは負いきれない。

 まあ、そう簡単にはいかないわな。


「そっか。俺は今のところ、どこかに縛られず自由に武器を作りたいって気持ちが強いんだ。ギルドの専属になるのはありがたい話だけど、ちょっと考えさせてくれないか」


「もちろんです。もし気が変わったら、いつでもギルド本部にお越しください。私たちはあなたの才能を歓迎します」


 使者はそう言って、恭しく頭を下げる。

 悪意は感じないし、ギルドへの就職も悪くない選択肢だと思う。

 だが、今の俺はまだここで腕を振るいたい。

 父さんと一緒に工房を守りながら、必要があれば自分から旅立つぐらいがちょうどいい。


「それにしてもすごいな。王都の貴族、闇商人、冒険者ギルド。こんな短期間でいろんな勢力が俺にアプローチしてきてるなんて、ヤバいっしょ」


 俺は苦笑しながら、工房の屋根を見上げる。

 この小さな村が、急に世界の縮図みたいになってきた。

 でも、そうやって変化が押し寄せるのは嫌いじゃない。


「父さん、俺はまだこの村の鍛冶屋としてやれることがあるよな?」


「当然だ。ここにはお前を必要とする村人たちがいるし、俺だってお前の腕が頼もしい。ギルドの話はありがたいが、慌てることはないさ」


「そだな。俺はもう少し、ここででっかい夢を形にしてみせるよ」


 父さんの言葉にうなずき、再びハンマーを手に取る。

 俺を呼ぶ声がある限り、ここで俺の炎は消えない。

 ギルドに入るかどうかは、もっと世界を見てからでいい。

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