第9話

 噂が広まって数日後、村に見慣れない馬車がやってきた。

 馬車の飾りや服装を見る限り、どう見ても貴族の関係者っぽい。

 案の定、そいつらは俺たちの鍛冶屋にまっすぐ向かってきた。


「やあ、ここが“魔鉱石の剣を違法に扱っている”と噂の鍛冶屋か?」


「違法? はっ、笑わせるぜ。俺は正当な取引で手に入れた魔鉱石の欠片を使っただけだ」


「お前がここの鍛冶師か。随分と口の利き方がなっていないな。俺は王都で貴族に仕えている者で、違法の疑いがあるなら捜査をする義務があるんだよ」


 丁寧そうな口調だが、その目は完全に見下している。

 いかにも“お前たち田舎者に王都の権力を見せつけてやる”って顔をしてやがる。


「まあ、調べたいなら勝手にどうぞ? こっちはやましいことなんて何もしてない。あんたらが出る幕なんてないんだが」


 俺は胸を張って言い放つ。

 相手の態度がどうであろうと、違法行為なんてしていない自信があるからこそ強気に出られる。


「フン、大した度胸だな。ならば、お前の魔鉱石の剣とやらを見せてもらおう。もし怪しい形跡があれば、罰則を科すことになるぞ」


「上等だ。ほらよ、これが俺の自慢の魔剣だ。しっかり見てみろ」


 俺は魔剣を取り出し、男の前に突きつける。

 紫色の刃先が、陽の光を帯びて妖しく輝く。

 貴族風の男は目を細め、まるで舐め回すかのように剣を観察していた。


「確かに、これは魔鉱石が合金化されているな。だが……製法がどうにも怪しい。普通なら王都に申請を出してから研究しなければならないはずだ」


「知らねえよ。俺は廃坑で手に入れた冒険者から譲ってもらった素材を、自分の工房で加工しただけだ。そんなの法律でガチガチに決まってるわけ?」


「うむ、正確に言えば、魔鉱石の加工には王都の許可が必要な場合がある。特に大量に取り扱う場合にはな」


「だったら俺は少量しか扱ってねえし、こうして一本作っただけだ。大量生産なんてしてないのに、違法だ何だと騒がれても困るね」


 俺の言葉に、相手は些か言い返せない様子だ。

 どうやら“違法”という言葉で脅しをかけ、俺を王都に連行するなり取り込むなりしようという魂胆らしい。


「まあ、そういうことなら、今回は厳重注意という形にしておこう。だが、このまま野放しにするわけにはいかん。お前の腕は王都でも注目されているからな」


「それで、どうする気だ?」


「お前の工房を、我々が監査する。定期的に視察をして、違法なことが行われていないかをチェックするつもりだ。もし拒否するなら、それなりの手段を取らせてもらう」


 男の言葉に、父さんが怒りをこめて食ってかかる。


「勝手なことを言うんじゃねえ! うちの工房は昔から正当な商売だけをやってきたんだ。監査だなんて聞いたことがねえぞ!」


「落ち着けよ、父さん。相手は王都のお偉いさんだってさ。下手に逆らうと面倒かもしれない」


「フン、まあいい。監査だろうが何だろうが、うちはごまかしなんてしねえよ。むしろ王都の貴族様に見せてやれよ、俺の鍛冶技術をな」


 その言葉に、男は僅かにニヤリと笑ったように見えた。

 何か企んでいるんだろうか。

 しかし、俺たちにできるのは堂々と胸を張ることだけだ。


「いい度胸だ。では改めて、我々は定期的にここを視察する。もし本当に違法がないなら問題ない。逆に何かあれば……わかっているな?」


 男は部下たちを引き連れ、馬車に乗り込んで去って行った。

 工房の空気は重苦しくなるが、俺の気持ちはむしろ燃え上がっている。


「来るなら来やがれ。どこにも負けない武器を作り続ければ、いずれあいつらのアゴを外してやることだってできるさ」


 そう呟く俺の目に、恐れは微塵もない。

 次はどんな権力者が絡んでくるかわからないが、遠慮するつもりは一切ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る