第8話:噂広がる
行商人とのやり取りから数日。
どうやら、彼が王都方面への道中で「山奥の村に魔鉱石の武器を作る鍛冶屋がいる」という噂をちらっと広めたらしい。
その結果、突然ほかの商人や冒険者が村を訪れるようになってきた。
「おい、本当にあんたが魔鉱石の剣を作ったのか?」
「見せてくれないか? 俺も魔鉱石の装備を頼みたいんだが」
そんな声が工房の外から聞こえてくる。
正直、まだ量産できるほど魔鉱石もないし、あれは実験で作った一期一会の剣だ。
だけど俺の評判が広まってきたのは間違いない。
「いやあ、こりゃあ予想以上の反響だな。嬉しいけど、俺たちの工房はそんなにデカくねえぞ?」
父さんが困ったような顔をしながらも、どこか誇らしそうだ。
村には狭い道しかないし、大勢の商人や冒険者が来ると、それはそれで騒がしくなる。
「はは、まあ仕方ないっしょ。俺がやらかしたんだし。父さん、ここはうちの鍛冶屋の名を売るチャンスだ。応えられる範囲でガッツリ受注しようぜ」
「お前はほんとに図太いな。まあ、せっかくの機会だ。やれるだけやってみよう」
こうして、俺と父さんは村に押し寄せる来客を相手に、工房での仕事を請け負うことになった。
魔鉱石を使った武器を欲しがる者もいれば、普通の武器や道具の修理を希望する者もいる。
「おいおい、こんなに依頼が集中してるの初めてだぜ。村で鍛冶屋をやってて、ここまで賑わうのはそうそうねえ」
「はは、いい感じじゃないか。俺の魔剣はまだ売るつもりはないけど、みんなが興味を示してくれるのは励みになるよ」
「でもな、ほんとに魔鉱石が手に入らないと、実質作れねえだろ? 今度はどこか別の場所で魔鉱石を探すしかねえんじゃないか?」
「そうだな。魔鉱石を求めて、旅するのもアリかも……。でもまずはこの村で頼まれた仕事を片付けないとな」
俺たちは昼夜問わずに工房を稼働させ、来る依頼を次々とこなしていく。
剣や斧だけでなく、鍬や鎌などの農具修理も多い。
前世の経験を思い出しながら、溶接や鋳造、研磨を効率よくこなし、あっという間に仕上げていく。
「お客さんが増えて、金もそこそこ入るし、うちの評判も上がる。いいことづくめじゃないか」
「だが息子よ、これだけ目立ち始めると、いろんなヤツが寄ってくるもんだ。いい奴らばかりじゃねえ。気をつけろよ」
「おっと、早くもフラグ立ちまくりか? まあ、来るなら来いよ。俺がここの鍛冶場を守ってみせるからさ!」
前世じゃ経営者の無茶ぶりに耐えるしかなかった俺だが、今世じゃ自分の腕で勝負できる。
もし邪魔するヤツがいれば、作った武器で容赦なく叩き潰すつもりだ。
そう、俺はこの鍛冶屋を守り抜いて、さらにでかい夢を追いかけるんだ。
それから数週間。村は以前にも増して活気づき、俺と父さんの鍛冶屋は当たり前のように人が集まる場所になっていた。
だが、そんなある日、妙な噂が流れ始めた。
「ねえ、聞いた? 魔鉱石を違法に取り扱っている鍛冶屋があるって。王国の法律に抵触してるんじゃないかって話よ」
工房の外からそんな声が聞こえ、俺は思わずハンマーを握り締める。
どうやら、俺の魔剣に目をつけた誰かが、風説を流しているらしい。
「ふざけんな。違法だなんてとんでもねえ。俺は正当なやり方で手に入れた魔鉱石を使っただけだぞ」
「息子よ、こういうのがあるから俺は心配してたんだ。王国には貴族や商会の利権があるからな。勝手に魔鉱石の武器を作るのを良く思わない連中もいるんだよ」
父さんの声は重苦しい。
これまで順調だった俺たちに、初めての暗雲が垂れ込めてきた。
「まあ、こんな噂だけで俺たちが萎縮するわけにはいかねえ。相手が貴族だろうがなんだろうが、やってやろうじゃないか」
そう言いつつも、内心は少しだけ不安が過る。
俺の魔剣が注目されすぎたのか、あるいは商売敵が意地悪をしているのか。
どっちにしろ、こっちが折れるつもりは毛頭ない。
「この鍛冶屋は俺が守る。誰にも邪魔させない。もし喧嘩を売ってくるなら、俺の作った武器で逆にぶちのめしてやるぜ」
燃えるような決意と共に、俺は再びハンマーを振り上げた。
いよいよ大きな波がやってくるのかもしれない。
だが、どんな相手でも叩き潰してみせる――それが今の俺の生き様なんだ。
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