第7話:魔剣を試し斬り

 翌日、完成した魔剣を握りしめて、俺は村の外れにある小さな林へと向かった。

 さすがに人前で試し斬りをするわけにはいかないから、人気のない場所を選んだわけだ。

 父さんは仕事があるから工房に残っている。

 まあ、一人でこっそり試すのも悪くない。


「さて、お前の実力を見せてもらおうじゃねえか。魔鉱石と俺の鍛冶が合わさった結晶……その名も“ファースト・マジックブレード”とかどうだ?」


 名前はダサいかもしれないが、ひとまず仮の呼び名として考えておく。

 俺は目の前に生えている太めの枯れ木の幹を睨みつけ、魔剣を振り下ろした。


「はっ!」


 刃が幹に触れるや否や、あっさりと幹が切り裂かれる。

 軽い手応えでスパッと断ち切るあたり、相当な斬れ味だ。


「うおお、やべえ。こんな感触、前世じゃ味わったことねえぞ。鉄工所で金属板切ってたときとは大違いだ」


 そのまま何度か振り下ろしてみる。

 刃こぼれの気配は一切なく、むしろ切断面が滑らかすぎて笑えてくるほど。


「こりゃあ、すごい。ちょっと気を抜くと自分の足でも切っちゃいそうだな」


 魔鉱石特有の魔力もこもっているせいか、刃を振るたびに紫色の軌跡が一瞬だけ見える。

 これなら魔物の硬い体表をも容易く切り裂くだろう。


「いやあ、作って正解だったぜ。この魔剣、マジで世界が変わるかもな」


 満足げに剣を眺めていると、村のほうから馬車がやってくるのが見えた。

 乗っているのは、行商人とその手伝い風の人間らしい。

 どうやらこの村を経由して、隣町へ向かう途中といったところか。

 ちょっと興味があって、俺は彼らに近づいていく。


「よう、旅の人か? ここら辺は魔物もいるから気をつけてな」


「おお、ありがとう。あんたはこの村の人かい? 鍛冶屋があると聞いたが、もしかしてそこの関係者?」


「ああ、実はそこの鍛冶屋の息子だ。何か用事があるなら力になるぜ」


 俺が魔剣を背に担ぎながら言うと、行商人は興味深そうに俺の剣を見つめてくる。


「そいつは見たことのない色の刃だな。まさか……魔鉱石を使ってるのか?」


「おお、よくわかったな。ちょっと実験で作ってみたんだ」


「こりゃあ驚いた。実は王都でも魔鉱石の武器が高額で取引されてるって噂だ。まさか、こんな村で見られるなんて思わなかったぜ」


 行商人の目が輝き始める。

 どうやら彼はビジネスチャンスを感じたらしい。


「もしよかったら、その剣を売ってくれないか? 俺が王都まで運んで、高値で買い取ってもらうこともできる」


「いやー、これはまだ試作品みたいなもんだし、手放すつもりはないんだ。ほら、俺もこれで魔物とかぶっ倒してみたいじゃん」


「そ、そうか。残念だな。だが、もしもっと魔鉱石の武器を作るようになったら、ぜひ俺に声をかけてくれ! 高く買い取る商人は山ほどいるはずだ」


「オーケー。そんときは連絡するよ」


 軽く会話を交わし、行商人の馬車を見送る。

 ただでさえこの剣は超一級品の手応えだ。

 もし量産できたら、確かに大金が手に入りそうだし、俺の名声も一気に広がる。


「ハハ、いいじゃねえか。金も名誉もゲットして、俺は最強の鍛冶師になる! まあ、危険も増えそうだけど……」


 そう呟きながらも、俺の胸は高揚でいっぱいだ。

 この剣をきっかけに、世界がどんどん広がっていく予感しかない。

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