第6話:精錬への挑戦
早朝、いつもより目が冴えた状態で工房へ向かった俺は、魔鉱石の欠片をそっと机の上に置く。
昨夜は考えすぎて夢にまで魔鉱石が出てきたくらいだ。
「さて、こいつをどうやって剣の材料にするかだ。前世でもレアメタルの扱いは繊細だったけど、魔鉱石のほうはさらに厄介かもしれねえ」
話によると、魔鉱石は魔力を持つからこそ特定の温度範囲でしか溶融しないらしい。
しかも、加熱しすぎると魔力が飛んでただの金属塊になるという。
逆に温度が足りないと溶かせず、形を整えられない。
「要は絶妙な火加減が必要ってわけだろ? やってやるよ。火と鉄は俺の人生みたいなもんだからな」
工房の炉に火をくべ、温度を徐々に上げていく。
温度計なんかはないが、炉の炎の色や金属の赤熱具合を見ながら調整するしかない。
父さんが不安げに見ているけど、ここは俺が自分の勘を信じる。
「お前、ほんとにやるのか? 素材が台無しになっても知らんぞ」
「俺にとっちゃ、一度きりの人生だ。失敗しても元々だろ?」
「やれやれ、無茶しやがる。まあ、成功したらとんでもねえ剣ができるかもしれんがな」
父さんの呆れを背中に受けながら、俺は魔鉱石をゆっくりと加熱する。
このとき、一緒に溶かす鉄の塊も注意が必要だ。
魔鉱石単体では脆さが残るという噂があるので、適度な合金化がカギになる。
「前世でやってた特殊金属の合金作りを思い出す。たとえば、チタンにバナジウムを混ぜる感覚……っても、この世界じゃ意味不明だろうな」
スッと魔鉱石がほのかに光り出す。
温度が合ってきた証拠なのか、石の表面が揺らぎ始めた。
「きたきた、このまま一気に溶かしてやる。頼むぜ、俺の腕!」
目を凝らしながら、ゆっくりハンマーで押し当てると、石の一部が溶融して鉄と融合しだす。
まるで生き物みたいに、魔鉱石の魔力が鉄に伝わっていくような感触がある。
「これ、いけるんじゃねえか? 頼むから爆発とかしないでくれよ」
必死に火力を調整しながら、俺は炉の中で金属をかき混ぜるように動かす。
魔鉱石と鉄が融け合っていき、独特の紫がかった輝きを帯び始めた。
「すげえ……こんな色の合金、前世じゃ見たことねえよ。よし、ここで一旦取り出すか」
思い切って炉の中から金属を引き上げ、作業台に置く。
激しく赤熱した塊をハンマーで叩いて形を整える。
火花が散り、一筋の紫色の輝きが空中に残っていく。
「こいつはやべえな。めちゃくちゃ堅そうだが、ちゃんと鍛えられる。思ったよりもしなやかだ」
「いや、息子よ。これは本当にすごいぞ。魔力が逃げずに鉄と混じってやがるなんて信じられねえ」
父さんも目を丸くして感嘆している。
これだけ特殊な金属ができあがったのなら、剣にすれば間違いなく切れ味も魔力も折り紙つきになるはずだ。
「ただし、ここからが本番だ。細かい整形と焼き入れで勝負が決まる。ヘタをすると折れやすい剣になっちまうからな」
「お前がそこまで理解してりゃ大丈夫だろ。あとは思う存分やってみろ」
父さんの言葉に気合を入れ直し、俺はひたすら金属を叩き、熱し、叩き、そして冷ます。
焼き戻しのタイミングと時間も慎重に計り、理想の形へと近づけていく。
「今の俺なら、この剣を最高の一本に仕上げられるはずだ。ああ、燃えるぜ!」
前世の経験と今の身体が連動し、まるで機械のように無駄のない動きで鍛造を進めていく。
叩くたびに金属が甲高い音を立て、紫色の輝きがいっそう深まっていく気がする。
やがて、刃の形状が完成形に近づいた頃、俺は熱した剣をゆっくりと冷却槽へ。
「頼む、成功してくれよ。これが完成したら、俺は村一番どころじゃねえ。下手したら王都でも通用する鍛冶師になれるかもしれない」
祈るように見守りながら、剣の赤熱が静かに冷めていく。
滴る水が紫の光を反射し、幻想的な光景を作り出す。
「すげえ……これはもう芸術だな」
「おお……息子よ、完成したようだな。一本の魔剣ってやつが」
手にした剣は、軽いのに堅く、切れ味に関しては言うまでもなく最高レベルだ。
これが俺の初の魔鉱石剣。上手く使えば相当な破壊力を発揮するだろう。
「やったぜ……! これが俺の、転生鍛冶師としての第一歩だ!」
工房にこだまする俺の声が、鉄と火の香りに溶け込んでいく。
早くこの剣を試してみたい。
この剣を手に、俺はもっとデカい世界へ飛び込んでいくんだ。
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