第3話:魔鉱石との出会い
村の依頼をサクサクとこなしつつ、俺はその日も工房で火を眺めていた。
前世から鍛冶や金属加工をしてきた感覚が、今の俺を支えてくれている。
でも、この世界には不思議な鉱石が存在するらしい。
魔力を帯びた鉱石――通称“魔鉱石”と呼ばれるそれだ。
「父さん、魔鉱石ってどんなもんなんだ? 前から気になってたんだけど」
「魔鉱石か? ああ、あれは厄介な代物だ。扱うには知識も要るし、加工に失敗すると使い物にならなくなる。オマケに高価だから、うちのような小さな工房じゃ滅多に取り扱わねえんだよ」
「えー、でもさ、魔鉱石を使った剣とかめちゃくちゃ強力なんだろ? いずれはそういうのも作ってみたいんだよね」
「まあ、野望があるのは悪くないが、今のままじゃ手が届かねえよ。都市の大きな工房ですらそうそう扱わないし、王都レベルじゃないと流通してねえ。俺たちには縁がない話だ」
父さんがそう断言するからには、村でおいそれと手に入るようなものじゃなさそうだ。
でも、転生した俺の野心は止まらない。
せっかくなら、この世界の最強素材も扱える鍛冶師になりたい。
「へへ、なら、いつか絶対手に入れてやる。俺が魔鉱石の剣を作ったら、きっとすごい武器になるぜ」
「まあ、お前ならやってのけるかもしれねえな。面倒なことに巻き込まれないように気をつけるんだぞ」
「任せとけ。敵が来たら、オレが作った武器でブチのめすからさ」
そう冗談めかして笑う俺を、父さんは頼もしそうに見つめていた。
それから数日後、村の外れにある廃坑に魔物が巣食っているという噂が立った。
どうやら、魔物を狩るために数人の冒険者がやってくるらしい。
魔物退治に使う武器の修理依頼を受けるついでに、俺は彼らから魔鉱石の話を聞くつもりでいた。
「冒険者かあ。どんな連中なんだろうな。前世じゃゲームの世界の話ってイメージしかないけど」
「ふっ、あんまり浮かれすぎんなよ。なんたって相手は魔物を狩る連中だ。武器の扱いも真剣だろうし、適当に作って渡したら命取りだぞ」
「わかってるって。ここでしっかり満足させてみせるさ。腕がなるぜ!」
俺はそう言って炎に照らされる鉄の輝きを見つめる。
この世界の冒険者達がどんな剣を使っているのか興味津々だし、会話で得られる情報も楽しみだ。
もしかしたら、魔鉱石について何かヒントを得られるかもしれない。
そして、その翌朝。
村の入り口に、それらしき冒険者達が現れた。
胸当てや腕当てといった簡易的な鎧を身につけているが、動きやすさを重視した布や革の装備が主体らしい。
しかも、一人ひとりがでかい武器を担いでいる。
「よお、あんたがここの鍛冶屋か? 俺たち、廃坑の魔物を退治しに来たんだが、武器の整備を頼みたい」
「オーケー、こっちは腕に自信あり! ぴっかぴかに修理してやるぜ。狩りに行く前に預けてくれ」
リーダー格らしい男性冒険者の持つ剣を見ると、刃こぼれが目立ち、剣のバランスも微妙に崩れているのがわかる。
これじゃあ、魔物相手には心許ないだろう。
「助かる。あまり金は出せないけど、ちゃんと報酬は払う。あと、廃坑で魔鉱石が見つかったらちょっと分けてやるからさ、うまいことやってくれよ」
その言葉に俺の心はドキリと反応した。
まさか、ここで魔鉱石のチャンスが転がり込むなんて。
俺はがぜんやる気をみなぎらせ、冒険者達の武器を工房へ持ち帰った。
「よし、やるしかねえ。俺の技術とこの身体をフルに活かして、完璧なメンテをしてやろう」
冒険者達が誇らしく魔物を仕留め、その報酬の一部に魔鉱石を手に入れる――そんな展開を妄想しながら、俺は目の前に並んだ武器を見据える。
もっとすごい鍛冶師になるための、一歩目がここから始まりそうな予感がするぜ。
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