第2話:村の依頼と、新米鍛冶師の評判
草刈り鎌の修理をあっという間に終えた俺は、さっそく村でちょっとした話題になっていた。
気づけば工房の門前には、どことなく興味をそそられた様子の村人たちが集まっている。
「おい、あいつがリョウ爺の鎌を直したっていう新人か? ずいぶん腕がいいらしいぜ」
「そうそう。鉄の扱いも早いし、切れ味が昔よりめちゃくちゃ上がったってさ」
ざわつく周囲を眺めながら、俺はにやりと笑った。
前世のブラック工場じゃ、こんなふうに注目されることなんてまずなかった。
もっぱら文句と不満の嵐だったが、ここじゃ仕事が評価されてるんだと思うと、感慨深いぜ。
「おっ、なんかいろんな依頼が来そうな雰囲気だな。父さん、こっちに仕事まとめて持ってきてくれ」
「おうよ。ちょうど村長さんから、新しい斧を作れないかって話もあってな。ついでに、隣町の行商人からも武器の修理の依頼が来てる」
父さんは次々と注文書のようなものを見せてくる。
斧の刃先の形状指定、柄の長さや鉄の配分量など、かなり詳細に書かれているものもある。
こんなに盛りだくさんの依頼をこなすのは大変そうだが、なんだかワクワクする。
「やっべえな、めちゃくちゃ燃えてきた。どんどん片付けちゃうぜ」
「ははは、そりゃあ頼もしい! じゃあ、工房の炉をもうひとつ使うか。素材は母屋の倉庫にあるから、好きなだけ使え」
「了解。よーし、まずは斧からいこうかな。斬るときの衝撃に負けないよう、炭素率を調整してやろう」
俺はキビキビと行動を始め、必要な素材を選り分ける。
斧の頑丈さは柄の材質も重要だが、刃の作り込み次第で大きく変わる。
前世で機械加工の知識を得た俺には、強度設計の基本がわかるので、そうそう失敗はしないはず。
「うーん、あんまり重くても扱いづらいし、軽すぎると刃の威力が出ない。ここはほどよくバランスを狙うか」
「へえ、なんだか難しそうなこと言うんだな。まあ、結果を楽しみにしてるぜ」
父さんがそう言うと、俺は炉に火をくべ、選んだ鉄塊を熱する。
真っ赤に染まった鉄を取り出し、ハンマーで叩きながら形を整える。
俺の腕とハンマーが鉄を打ちすえる音が、工房の空気をビリビリと震わせる。
「こいつは気持ちいい! 前世でも鍛錬はしてたけど、こうやって武器を作るのはまた別格だな」
「ガッハッハ、鍛冶屋の息子に生まれてよかっただろう? ようやく自覚が出てきたか」
カーン、カーンと金属の高音が響くたびに、村人たちが工房の外で見物しているのがわかる。
斧の姿がだんだんと整い、刃先が鋭いシルエットを帯び始める。
その光景に、周囲から小さな歓声があがっていた。
「ほら、見ろよ。あの若造、すげえ技術だろ?」
「ただの小僧じゃないな。何か特別な才能でもあるんじゃないか?」
村の人々は、まるで祭りでも見ているかのように目を輝かせている。
こういう反応をもらえると、俺のテンションは一段と上がる。
「よっしゃ、仕上げにかかるぜ。刃の刃先を最適温度で冷やして強度を上げる。これで、折れにくく欠けにくい斧が完成だ」
「おお、すげえ迫力だな。持ってるだけで俺の腕が太くなるような気がするぜ」
俺は笑いながら完成した斧を掲げる。
斬れ味に加え、使い手の身体に負担をかけにくいバランスが取れているこの斧なら、きっと村長さんも喜んでくれるだろう。
もっと腕を磨けば、さらにハイレベルな武器も作れるはずだ。
俺がこの世界で鍛冶師として生きていく道は、まだ始まったばかりだが、もうすでに手応えを感じている。
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