あの頃の僕たちは
平木明日香
夏の空の向こうには
第1話
先日、中学時代の友達から連絡があった。
最初その連絡を聞いた時、僕は何も思わなかった。
目の前の仕事に追われてて、自分のことで精一杯だった。
だからその連絡にはサッと返信し、へんに掘り下げたりはしなかった。
「ああ、そうなんだ」というふうに、スマホの画面を閉じるだけで。
「それで、ちゃんとスーツは用意してるの?」
「してるよ。入社式の時に使ってたやつがあるでしょ」
「そうだけど、ネクタイとかは?」
「100均に行けばあるし。なんとでもなる」
「数珠とかもいるからね?」
「数珠?そんなものいらない。どうせすぐ終わるし」
「…だけどあんた、ほんとに大丈夫なの?」
「何がって、拓也君だよ…?」
「わかってるよ」
母さんはいつもおせっかいだった。
友達からの連絡の後、いの一番に連絡してきて、「スーツは持ってるか?」って。
僕は軽く返事をした。
母さんの言いたいことはわかってた。
母さんにとって、拓也はただの“同級生”じゃない。
子供の頃から、他の子達よりも身近な存在だった。
拓也ん家とは家族ぐるみの付き合いだった。
とくに拓也の母さんとうちの母親は、中学高校と同じ学校に通っていた。
2人ともバレー部で、先輩と後輩の仲だった。
俺が中学生の頃は、それこそお互いの家でよくお茶を飲んだりしてて。
スーツを着るのは去年の4月以来だった。
クローゼットの中にしまい込んでたせいで、少しカビ臭かった。
ネクタイの付け方は忘れてしまった。
…っていうか、家にあったっけ?
父さんがたくさん持ってたはずだった。
黒色も何本かあった気がする。
家に戻ってみるのも手だけど、やっぱり百均に行こう。
アパートからはすぐ近くだった。
俺が働いてる会社は市内にあって、地元の町からは、1時間も離れた場所にあった。
あの頃の僕たちは 平木明日香 @4963251
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