第8話 野生のメイド

 保健室からは逃げ出したよ? ホントだよ?

 肉欲に身を任せてしまいたい気持ちも滅茶苦茶あったけど、がんばったよ?

 なんか一度でもやっちゃうとがっちり捕獲されて絶対逃がさないぞ的な気配を感じたんだよね……

 まだもうちょっと青春してみたいなぁ、的な?

 あと奈々先生からダメンズ・メーカー的な気配を感じたし。

 

 なんとか寮の部屋に戻ったあとも大変でした。

 悶々として全然寝れなかったぜ……

 流れに身を任せておけば、と何度も後悔したね!


 そんなわけで物凄い寝不足な翌朝。

 1年2組の俺以外の生徒は実戦実習らしくて今日は授業がない。

 向こう三日は探索禁止なのでダンジョンにも行けない。

 部屋で寝て過ごそうかとも思ったがそれもなぁ。


「そういえば……」


 ベッドから起き上がり、机の上に置いてあった課題一覧を手に取る。

 図書館での調べものや購買での買い物関係もあるのか……

 どうせダンジョンに入れないなら、その辺に手を付けるか。

 せっかくなのでついでに校内の設備見学もしてみよう。

 

 思い立ったらすぐ行動である。

 手早く制服に着替える。

 だが、想像はしていたが魔剣マガが邪魔。


「なんですか?」

「いや、かさばって邪魔だなぁって」

「失礼ですね」


 そこまで重くはないけど、かさばるなぁ。

 鞘もないしなぁ……

 でも呪われてるから放置もできないし。

 部屋で試したところ、持たずに移動すると魔剣がずるずる付いてくる感じだった。

 実際の重さの数倍って感じだったので持つ方がマシそう。


「よし、ちょっと大人しくしといてくれ」


 とりあえず剣身にタオルでぐるぐる巻きにする。

 変にギザギザしていないシンプルな剣身で助かった。

 タオルの上から魔剣を手に持つ。


「購買でさやでも探すか……剣を剥き出しじゃ流石になぁ」

「この姿よりマシなら何でもいいです」

「ぁー……金、足りるかなぁ……」

「どうにか工面してください」

「ぁ、外では喋るなよ?」

「当たり前でしょう。そのくらい心得ていますよ」


 知恵ある武具インテリジェンス・ウェポンって珍しいっぽいしね。

 殺してでもうばいとる、されたくない。





「毎度ありがとうねー」

「いえいえー。頂いてきますー」


 アメリカンドッグを5本ほど買ってしまった。

 ちょっと出費が痛いぜ……

 朝晩は寮で出してもらえるけど昼飯は自腹だしなぁ……


 いや、購買に行く途中にホットスナックの売店があるのが悪いんだって。

 お姉さんにおいでおいでされたし。

 揚げたてで美味しいわよって言われたし。

 なんか昨日からめっちゃ腹減るし。

 朝ごはんも周りが驚くぐらいお代わりしたんだけどなぁ……


「遅れてきた成長期だといいなぁ」


 身長はあまり伸びなくていまだに160センチそこそこだ。

 トレーニングでつけた筋肉が邪魔した可能性もあるが。

 それでも体質的には筋肉が付きにくい感じ。

 あと童顔だし。

 レベルが上がれば筋肉量と誤差レベルらしいが、俺は鍛え続けた方がいいんだろうなぁ。

 あぁ、揚げたては熱々で美味しい。


 なんだろう。

 視線を感じる。

 あれ、は……メイド服?

 ぁ、目が合った。

 こっちに歩いてくる……


「………………」


 メイドさんである。クラシックの方。

 さらさらロング金髪で超美人な無表情メイドが無言で目の前に立っている。

 すらりと背が高いのでなかなかの威圧感。

 スタイルもおよろしい。

 勢いよく歩いてきたわりに何で無言なんだろう……


「えっと、何か御用ですか?」

「………………」


 きれいな碧い瞳でこっちをじーっと見ている。

 整った顔で無表情は怖いのよ。

 ん……? 俺の持ってるアメリカンドッグを見てる?


「えーっと……食べます?」

「…………いいの?」

「なんか、食べたそうだったので」


 アメリカンドッグの載った紙皿を差し出す。

 ほっそりとした奇麗な手が伸びてくる。

 ぇ、両手?

 しかも2本ずつ取られた。

 全部じゃん。


「…………ありがとう」


 お礼を言うやいなや小さい口ではぐはぐと食べ始めた。

 なかなかの食べっぷり。

 口の周りにケチャップがついてるのがお茶目かわいい。

 無表情だけど。

 あっという間に4本とも無くなった。


「…………ありがとう。美味しかった」

「いえいえ、ちょっとびっくりしましたけど、大丈夫です」

「…………お礼」

「いや、いいですよ。美味しそうに食べてるの見れたので」

「…………でも……お礼、したい……」


 ふむ。どうしよう。

 なんか人見知り感があるメイドさんだ。

 お礼と言ってもなぁ……

 ぁ、購買のさや売ってるところを教えて貰おう。

 探す手間が省けそう。


「それじゃ剣の鞘売ってそうなところに連れて行って貰えます? 新入生なんで全然わからなくて」

「ん…………付いて来て……」


 俺のお願いに小さく頷たメイドさんが歩き出した。

 足元に置いていた魔剣を拾って後に続く。

 ロングスカートが歩くリズムにあわせてひらひら。

 スカートのひらひらは何故あんなに目を奪うのか。

 もはや本能だよね。

 おぉ! 階段の踊り場でスカートふわーってなったぁぁぁ。

 かっこかわいい。


「…………ここ」


 はて。

 購買の装備品売り場に連れていかれると思っていたが。

 どこだろう、ここ。

 小さめの部屋がたくさん並んでそうな廊下。

 ちょっとガヤガヤしてるし、部室棟みたいな雰囲気。


「どこです? ここ」

「…………うちのクラブ部屋……装備品とかを……作って売ってる」


 おっと。クラブ。

 思わぬラッキーかも?


「もしかして生産系のクラブの方でした?」

「…………そうだけど?」


 小首を傾げるメイドさん。

 かわいいと何してもかわいいな。


「誰やー」


 開けっ放しだった入口の前で話していたせいか中から声がかかる。

 関西弁っぽい……?

 この学校では初めて聞いたかも。


「…………入ろう」


 メイドさんがすたすた入って行ってしまう。

 ここで逃げても仕方ない。


「お邪魔しまーす……」


 そろそろと中へと入ると意外と広かった。

 わりと奥行きがある感じ。

 入ってすぐにカウンターっぽいところがあり、奥はカーテンで仕切られている。 


「すーちゃん、おかえりや」

「…………ただいま。お客さん、連れてきた」


 カウンター内にパーカー姿のちっちゃい女の子が座っている。

 小学2~3年生ぐらい……?

 栗毛色の髪を両脇で三つ編みにしている。

 メイドさんと喋ってる感じだとクラブの人っぽいけど。

 学外の人も入れるクラブなんだろうか?

 インカレサークル的な?


「新入生やんなぁ。いらっしゃい。何が欲しいんや?」

「えっと……この剣をしまう鞘か空間収納系アイテムが欲しくて」


 剣身が見えるよう魔剣マガのタオルをほどき、カウンターに置く。


「ふむー……ちょっと待っとってなー」


 剣をさっと見るや女の子が椅子を飛び降りる。

 そのままてててっとカーテンの奥に走っていってしまった。

 あの子が見繕ってくれるのかな?

 カウンターの脇に立っていたメイドさんがちょっと笑っている。

 初めて表情らしい表情が見れた。

 笑うと超かわいいな。


「…………大丈夫。心配しなくても、ちーちゃんは、優秀だよ」

「ちーちゃん、って言うんですか? あの女の子」

「そう…………室戸むろと千花ちかちゃん。……私と同級生だよ」

「同級生!?」

「なんやー? どないしたー?」


 驚きの余り大声が出たところでちーちゃん先輩が帰って来た。

 抱えていた何本かの鞘をカウンターに置く。

 とっても子どものおつかい感。


「…………ちーちゃんと私が、同級生だって教えたところ」

「ぁー、はいはい。いつものやな。ちゃんと2年生やで。ぴっちぴちの16歳や」

「はぁ……」

「信じられへんて顔やなぁ」

「いや、だって、制服も着てないですし……」

「そんなん、汚れたら嫌やろ。特注サイズやねんで。たっかいねん」


 まぁ確かに小さい。色々と。

 ともあれせっかくの縁なので大事にしよう。


「ほんで、鞘やろ。この辺でどないや?」

「どれもカッコいいですけど……良し悪しとかが全く分かりません」

「長剣やろ? 刀やないから居合とかもせんやろうし、ガタつかずに収まるんならどれでもそんな変わらへんで。革の裏打ちやら先端の補強はどれもそんなに違わへん」

「そうですか……ちなみにおいくらぐらいです?」

「一番安いんで5万くらいやな。手間賃と材料費とでそんなもんや」

「……」


 まずい。思ったより高い。

 1万前後もあれば買えるかなぁと思ってた。


「なんや、金足りへんのか?」

「ぁー……そうですね、予算オーバーです……」

「ほんなら、金貯めてからまた来てな」


 まぁ高くて買えないなら仕方ないか……

 購買の方も見てみようかなぁ。


「ちーちゃん…………なんとか、してあげて欲しい……」

「そうは言うても、まからへんで」

「でも…………この子、たぶん強くなる……」

「ホンマかいな」

「たぶん…………」


 なぜかメイド先輩が交渉してくれている。

 アメリカンドッグのお礼かしら?

 ちーちゃん先輩が腕組みしながらうんうん考え込んでいる。


「せやなぁ……まぁ、すーちゃんの頼みならしゃーないな。待っとき」


 カーテン奥へ走って行くちーちゃん先輩。

 すぐ戻って来てカウンターに小さな指輪を載せた。

 銀色のちょっと肉厚なリングで宝石っぽい石が1つ付いている。


「収納アイテムや。その剣入れたらほとんどいっぱいぐらいのちっさいやつやけどな」

「はぁ……」

「それ、1万でえぇで。格安や」

「え、いいんですか? 空間収納系のアイテムって高いんですよね?」

「すーちゃんのお願いやからな。足りへん分は貸しにしといたるわ」

「ありがとうございます。大事にします」


 相場が全然分からない。

 貸しは怖いがせっかく手に入るチャンスは逃したくない。

 財布から1万を出してちーちゃん先輩に渡し、指輪を受け取る。


「指輪したら収納しいたい物と触れさして、念じい」


 サイズ的に左手の小指あたりかな。

 言われた通りにやってみる。

 カウンターの上から魔剣が消えた。


「おぉぉ、すげぇぇぇ!」

「なんや、使うてみるの初めてかいな。出すときは机のすぐ上に手を持って行って念じるんやで。変なとこで出すと落っこちるで」

「おぉぉー」

「指輪についてる魔石が空になったら使えななるで。そしたらウチんとこ持って来いや」

「分かりました! ありがとうございます」


 魔剣を何度か出し入れしてみた。

 素晴らしい。超便利。

 収納アイテムすっげぇぇ。楽しい。


「暇なときはだいたいこの部屋におるはずや。おらんときは室戸に依頼があるって部屋におる連中に伝えてや」

「了解です! ちーちゃん先輩!」

「なんでちーちゃん先輩やねん! まぁえぇか……通じるやろ」


 ふわりとアメリカンドッグの残り香。

 腕に微かな違和感。

 いつのまにか近くにいたメイド先輩が俺の腕を軽く引っ張っている。

 顔を向けると小さな声で何かをつぶやく。


「…………古神子こかごすい

「?」

「ぁー、すーちゃんの名前や。自分から自己紹介すんのも珍しいで。ジブンのこと気に入ったんやろな。覚えたって」

「了解です。えっと……メイド先輩?」


 ぁ、ちょっと悲しい顔された。

 ふざけ過ぎたな。

 でもちょっと表情出てきたかも。


「すーちゃんは色んな衣装着るから毎回メイドでもないで」

「そうなんですか? じゃぁ……古神子先輩?」

「…………」


 あれ、これもダメっぽい。


「んー……すい先輩?」

「…………ん…………」


 今度は大丈夫だった。

 忘れないようにしよう……

 油断するとメイド先輩とか呼びそう。


「えっと、俺は天野です。天野伊織、1年です」

「よろしゅうな、伊織」

「…………いっくん、よろしく」


 良い縁をつなぐことができた。

 本日の教訓。

 野生のメイドがいたら助けると良いこともある。



 ――――――――――――――――――――

 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 やっと1章で出る予定のヒロインたちがおよそ出そろいました。

 時間かかってすいません。

 気に入ってもらえるといいなぁ…


 フォローと★★★がまだの方は執筆のモチベアップになりますので、ぜひよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

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転生おじさん、憧れの探索者学校に入学してみたら一人だけレベル0でぼっち劣等生に。でも魔剣に呪われたのでちょっとダンジョン攻略してみます。 ダイシャクシギ @day_ba

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