第7話 続・保健室
鑑定。
人間、モンスター、ダンジョン産のアイテム等の情報が見れるらしい。
人間だとレベル、ジョブ、スキルあたりまで。
モンスターやアイテムは名前と簡単な説明が出るとか。
スキルレベル的なものがあるらしく、鍛えていくと見える情報も増えるそうだ。
「鑑定の結果、教えて貰ったりできますか?」
「構いませんよ。と言うか、たぶん今後はわたしがマメに鑑定することになると思います」
「……そうなんですか?」
「上の方の判断にもよりますけどね。ちょっと特殊な結果なので、学校備品の測定器だとエラーで何も出ないと思います」
奈々先生とマメに会う口実ができたのは素晴らしい。
鑑定スキル持ちなのはあんまり公にしてなそうだし。
きっと二人きりとかになれるはず!
「それで内容ですが、残念ながらレベルは0のままです」
「ぁー……はい……」
ダンジョンの中でレベル上がった感じはしなかった。
ん?
あれは血を浴びたせいとか言っていた気がする。
レベル0のままらしいし、違う何かだったのだろう。
「それで、ここからがちょっと特殊なところです。まずジョブが文字化けて読めませんでした」
「はぁ……」
「鑑定結果が文字化けるなんて、見たことも聞いたこともないです!」
「そうなんですか……」
ちょっと興奮した様子に対してつい薄い反応を返してしまう。
奈々先生がまた口を尖らせてしまった。
かわいいからいいんだけど。
「むぅ……それともう一点。『浸蝕度:5』という通常はない表示がありました」
「浸蝕……?」
「えぇ。しかも最初は読めなくて。かなりスキルに魔力を込めてようやく読めたんです」
「はぁ……」
「何かしら
浸蝕……隠蔽……心当たり……
「
「……なんでしょう」
「何か隠してた?」
「面倒なので言っていなかっただけですよ。
やっぱりこいつだった……
別の方法、ねぇ……
「約束を破らないんなら、邪道でも何でもいいさ。どうせ普通にやってもレベル上がらないんだろ?」
「えぇ。そこは間違いなく」
「天野くん……」
奈々先生は心配そうな顔で俺たちを見ている。
心配をかけちゃって申し訳ない気分。
「奈々先生、大丈夫ですよ。何かあればすぐ相談しますから」
「そう、ですね……遠慮なく相談してください」
あのガハガハ笑ってるだけの担任よりは百倍ぐらい信用できるし。
相談するなら絶対に奈々先生でしょ。
「さて、事情はおおよそは聞けたので聴取はここまでにしますね。一応、実力確認はしておきたいので、完全に回復したらわたしと対人訓練をしてみましょう」
「奈々先生と、ですか?」
「もちろん。これでもレベル23の
「……見えませんね」
「……よく言われます」
わりと小柄で小動物感のある奈々先生に重戦士は似合わないなぁ。
レベルは流石に探索者学校の先生だけあって高い。
ダンジョンへ引率とかもするしね。
「あぁ、それから……」
奈々先生が視線を俺から魔剣の方に向けてる。
そして言いづらそうにもごもごと話し出した。
「
「あなたがたの呼び方や扱いは知りませんし、”鑑定”でどう出るのかもしりません。ですが契約主から離れられない状態なのは認識していますよ」
「ぁ……はい、やっぱり……」
へ? 俺は聞いていませんけど?
はてなマークいっぱいの疑問顔だったのだろう。
奈々先生が苦笑しながら補足説明をしてくれた。
「えぇと、魔剣さんは一般に呪いの装備と呼ばれるものになります。持ち主から1メートルほどしか離せないはずです」
「呪い……」
「なんか離そうとすると引っ張られる? らしいですよ?」
「はぁ……まぁあとで試してみます。ちなみに解除方法とかは?」
「ダンジョンでかなり高位のアイテムをみつけるぐらいしか解呪できた例はないはずです」
「……契約の一部なので解呪は無理でしょうね」
マジか。
魔剣と1メートル以内ですごすの? 一生?
風呂もトイレもあーんなときもこーんなときも?
不便すぎじゃね?
「えぇっと、確か空間収納系のアイテムを身に着けて収納すれば、それでも大丈夫なはずですよ」
「空間収納系アイテム……」
「例えばこういうのですね」
奈々先生が椅子に座ったまま突然靴を脱ぎ、ベッドに右足を乗せる。
ふくらはぎのラインがエロくてきれいなおみ足。
その足首に所々に宝石がついた細めの鎖が何周か巻き付いている。
アンクレットというやつだろうか?
というか短いスカートでその姿勢はっ……
でも角度的に見えそうで見えない!
「わたしは前衛なので手はリスクがあるからアンクレット型です。ちょっと高いのが難点ですけど、便利ですよ?」
「……」
「天野くん……?」
「いえ、なんでもないです。奈々先生の脚がきれいだなぁとか……ちなみにおいくらぐらいです?」
「ふふ。ありがとうございます。えぇと……これは装備一式が入るくらいの収納量で300万ぐらいだった気がします」
余裕の笑顔で流されてしまった。
それにしても、高いなー……
ちょっと高い、なのは探索者の金銭感覚なのかな。
義父母に迷惑をかけたくなくて仕送りすら断った俺には遠すぎる金額だ。
渋い顔をしていた俺に奈々先生が微笑みながら助言をくれる。
「わたしのはダンジョン産出品ですけど、
「生産者……」
「戦闘系のジョブよりは少ないですが、学内にも何人かいますよ」
「そうですか……あとで探してみます」
買うよりは安く済む可能性が高いのだろう。
校内にいるのなら早めに探し出して依頼か交渉をせねば。
ずっと魔剣を持ち歩くのは厨二すぎる。
「ただ、1年生の生産者だとまだ難しいでしょうから上級生で探してみて下さい。生産系のクラブを当たるのが早いと思います」
「クラブ、ですか?」
「学生同士の互助団体みたいなものです。パーティーは課題の都合でクラス内で組みがちなので、情報やアイテムの融通と課題以外の探索をクラブでやっていますよ」
部活みたいなものなのかな?
いや、プロ探索者で作られるクランの練習みたいなイメージか。
プロのクランとつながりのあるクラブとかありそう。
「所属も推奨されるので、そういう目線でも探してみたらいいと思います」
「……俺でも所属させてくれるクラブありますかね?」
「……がんばって探してください。ちょっと悪い噂が独り歩きしていそうなので……」
わー……目を逸らされたー……
悪い噂ってなんだろう。
まぁレベル0だもんなぁ……
「それと、これで……最後ですね。倒れてほぼ一日意識を失っていたので、明日から三日間はダンジョンへ入るのは禁止です。身体を休ませてください」
「ぁー……はい。そうします……」
「さて」
奈々先生がベッドから足を下ろして立ち上がろうとした時。
パイプ椅子と足が絡みでもしたのか。
ガチャンという音とともに奈々先生がバランスを崩す。
「ぁ、ちょ――」
倒れかかって来た奈々先生を思わず抱き留める。
なんかいい匂いがする。
奈々先生の顔が近い。
ちょっと赤くなった顔。柔らかそうな唇。
押し殺すような、かすかな吐息。
吸い寄せられる――
「奈々~」
声と同時に扉を開ける音。
ぴしりと固まる俺たち二人。
扉の前で香川先生はほんの少しだけ目を大きくした。
「あら、取り込み中? もう少し後の方が良さそうね。それとも、混ざる?」
「エ、エリー! こ、これは、その……」
「なによ、いい年してそんな若い子みたいな反応して。ガバっと食べちゃえばいいのよ~。天野くん、あなた好みのちょっとかわいい外見じゃない」
「そ、それはっ……あの、その……」
はわはわしてる奈々先生を見て香川先生は軽く笑う。
そして俺の方に妖しげな目を向ける。
「んふふ。天野くん、探索者学校の生徒って入学時点から年齢問わず成人扱いだって知ってる?」
「……そうなんですか?」
「入学できる時点でダンジョンに入れるってことだからね。力を持つ者には責任を~ってことよ」
「はぁ……」
「というわけだから、成人同士だし、何の問題もないわよ?」
扉を後ろ手で閉める香川先生。
ガチャリという鍵の閉まる音が部屋に響く。
ぇ? 今度こそ美味しく頂かれる流れ?
上げ膳据え膳?
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