2.出逢
起きた瞬間の怠さが私の生を証明してくる。嫌なことは全て夢、なんて都合の良いことは起こらないもんだな。残念残念。
さて、どうしたらいいものか。頭を過ぎようとして立ち止まったのはそんな疑問で、私の中の不安を掻き立ててくる。かなり寝たようで、時刻は午前11時といったところか。
「…街に出てみるか。」
非常に頭が悪いと思う。この近くで時間を潰せそうな街なんて、夜の店があったりちょっとヤバい人がいたり…とにかく危ないだろうから。
でも私はそんなことどうでも良かった。気にしてる暇なんて無かった。
何より、すべてを忘れたい。もう失うものなんて無いと胸を張って言える。何かがあっても、それで何もかも忘れられるのならそれでいい。
何も考えず昨日の制服のまま、靴を履く。昨日の朝よりも体が軽い気がして、内心気持ちが高ぶりながら街まで歩いた。
「制服、やめたほうがいいよ。」
知らない声が聞こえたと同時に、後ろからブレザーの裾を引っ張られた。予想外の出来事に足と思考は固まってしまう。
振り返ってみればそこには、真っ黒の巻かれたツインテールに黒マスク、フリルの付いた可愛いお洋服を身に纏ったいかにも地雷系な女性。
思わず見惚れてしまった。メイクも爪もとにかく可愛い。
摘まれた裾は離されることなく、ペットのリードのように彼女は私をどこかへ連れて行った。無抵抗で、流れるように。どうなってもいいと考えていたから。
そう、何も考えずに付いて行くうちに彼女が足を止めたのはなんだかお洒落な意識高い系のカフェ。彼女は、訳もわからず困惑している私を見て、
「入って。」
と、冷たくとも柔らかい声で呟く。先にカフェに入っていくのを見て糸を引かれるようにつられて入店する。
そこは木でできた家のような温かさと数々の小物からアンティークな雰囲気を持ち合わせていて、外見通りお洒落だった。窓から差す光はまだ真っ昼間であることを知らせると同時に、この空間をより居心地の良いものに変えてくれる。
彼女は慣れたように奥から2番目の席に座り、「ここに来い」と言わんばかりに私の方を見た。目は口ほどに物を言う。
丁度、彼女側にだけ日光の当たる席だった。照らされた姿も非常に美しく、つい気を取られてしまう。
ぱたぱたと若干小走りで出てきた若い女性の店員さんに、「アールグレイ2つ。」と、これまた慣れたように伝える貴女。きっと何をするにも素敵だ。
だが私にはそんなものに気を取られている暇は無いんだ。何故、彼女は私をここに連れてきたのかが不思議でたまらない。そう考えていると彼女が目線を此方に移して1言。
「ねえ、」
リボンと錠剤 羽根衣 @han_e-kor0rno
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