第6話 人魚の涙と少年
ある夜波打ち際で、人魚が泣いていた。
薄緑のうろこの上にポロポロと落ちる涙は、伝説の通り、いくつもの真珠になって浜辺の岩に落ちた。
そのほとんどは波にさらわれて海へ流れていったが、いくつかは岩陰に残ったままだった。
翌朝、麦わら帽子を被った少年が浜辺にやってきて、この真珠を見つけた。
少年はこんなに綺麗なものを見たことがなかった。
一粒一粒大事にひろいあげると、ズボンのポケットに入れた。
真珠は全部で七粒あった。
少年は真珠を一粒お母さんにあげた。
お母さんはそれをネックレスにした。
もう一粒はお父さんに。
お父さんはブローチにしてコートの襟につけた。
それから、もうすぐお嫁入りするお姉さんにもあげた。
お姉さんは花嫁衣装の胸元に、真珠を飾り付けた。
妹に一粒あげると、妹は人形の髪飾りのリボンに真珠をくっつけた。
おじいさんとおばあさんに真珠をあげると、二人はおそろいの腕輪を作って腕にはめた。
最後に残った一粒をポケットに入れたまま、少年は海に行った。
自分はこの真珠を何に使うか、まだ決めていなかった。
夕暮れの浜辺の岩の上に、人魚が座っていた。
人魚はぼうっと夕日を眺めていて、少年が近づいてもそこを離れようとはしなかった。
少年は知らなかったが、その人魚は昨晩この浜辺で泣いていた人魚だった。
少年は真珠をギュと握りしめて、人魚に差し出した。
人魚は不思議そうに首を傾げたが、やがて少年の前に自分の手を広げた。
人魚の手の平に、乳白色に輝く真珠が転がり、夕日を照り返して温かく光った。人魚はしばらく真珠を見つめていたが、ふっと微笑むと、少年の頬にキスをした。
それから人魚は真珠を握りしめてざぶりと海に飛び込むと、沖の方で一度手を振ってから、海に潜って行ってしまった。
夕日に照らされた少年の頬は、赤々と燃えているようだった。
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