第5話 ある海賊の人生

その初老の男は海賊船の乗組員だった。

今首にかけられたこの縄に、値する人物だと自分で思っていた。


人を殺したし、金品も奪った。

捕まれば罰を受けるのはこの世の理りだ。


なぜ海賊になったのかは分からない。

それ以外の生き方を選べなかったからだと言えばそれまでだし、選ぼうとしなかったらからだと言われれば、またそれも的を射ている気がする。


自分は地獄へ行くのだろうなと思った。

男は神の存在など信じていなかったが、なぜか天国と地獄は信じていた。

真っ当に生きてきて死んだ人間が、自分と同じ場所へ行くとは思えなかった。

真っ当に生きてきた人間が、自分に手を差し伸べてくれたことはなかったとしてもだ。


男はある晩のことを思い出した。

大きな海軍の艦船をやっつけて、皆で葡萄酒片手に一晩中歌い、踊り明かした夜のことだ。

月が明るくて、船長の機嫌もよく、酒はいくらでもつがれた。


その船は数年後に沈没した。

男は運良く生き残って別の海賊船に拾われてここまできたが、とうとう運が尽きたようだ。


(地獄にあいつらもいるだろう)

ほくそ笑みながら、男は静かに目を閉じた。

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