第15話 元凶の娘

「トア⋯⋯ユクトが以前あなたを助けてくれた人だったのですね」

「うん。魔物からトアと子犬を守ってくれたんだよ。だからお母様もユクトお兄様のことを信じてほしい」

「人族だからと言って片寄った考えをしてはいけませんね」

「そうだね。エルフだって良い人もいれば悪い人もいる。人族だってきっとそうだよ。噂で判断しないで、自分の目で相手を判断しなきゃ」


 トアちゃんは良いことを言うな。確かにその通りだ。俺のいた世界でも魔族といえばどちらかというと悪い存在だった。

 でもこの世界の魔族は人族が手を出さなければ、攻めて来ることはなかった。魔王であるルーシアも話がわかる人物のように見えるし、自分だけの思い込みで決めつけるべきではないということがわかる。


「ユクト」


 女王陛下が神妙な顔でこちらに視線を向けてきた。


「まずはエルフの同胞を救っていただきありがとうごさいます。そして以前娘から、人族に助けてもらったと話は聞いていましたが、それがユクトだったなんて⋯⋯あなたには感謝しかありません」


 女王陛下は深々と頭を下げてきた。


「そんな、頭を上げて下さい。困っている人がいたら助けるのは当然のことですよ」

「いえ、これはエメラルド王国の王族として、一人の母親として⋯⋯恩人に礼を述べることは当然のことです」

「ユクト、私からも言わせてもらうわ。ありがとう」


 エルミアとトアまで頭を下げてきた。多くのエルフ達も見ているし、この状況は少し居心地が悪いぞ。こ、こうなったら⋯⋯


「エルミアが珍しく素直だな。いつもはそっけない態度なのに」

「な、何言ってるの! 私はいつも素直でしょうが!」

「えっ?」


 エルミアの言葉に、俺は思わず素で驚きの声を上げてしまう。

 エルミアが素直だったことなんて数える程しかなくないか?


「バッカじゃないの! もうユクトなんか知らないから!」


 俺の態度が気に入らなかったのか、エルミアは怒りを露にしながらこの場を立ち去っていく。

 この謝罪の空気を壊すことが出来たけど、エルミアの俺に対する好感度はさらに下がってしまったな。


「ふふ⋯⋯ユクトには素の感情を見せているようですね」

「お姉様は怒っているように見えるけど、全然怒ってないと思う。だからユクトお兄様は気にしなくて大丈夫だよ」

「そうなの?」


 さすがは家族だな。俺には怒っているように見えたけどどうやら違うらしい。でもエルミアに直接聞いたらたぶん否定されるんだろうな。


「それよりユクトが何故魔王の仲間になったか、その理由を聞かせていただけませんか?」


 ユズを助けるのに味方は多い方がいいだろう。

 俺は女王陛下に向かって口を開く。

 だがその行為は女王陛下本人に遮られてしまった。


「ですがその前に⋯⋯人族の王の娘であるリアーナがここにいることは看過できませんね」


 女王陛下はエルミアと共にこの場に来たリアーナを指差す。その表情は険しく、明らかにリアーナを敵として見ていた。

 しかしその気持ちはわからないでもない。

 自分の娘やエルフ達に隷属の首輪を着けた元凶の娘がいるんだ。女王陛下の視線が厳しくなるのもわかる。

 周囲のエルフ達もリアのことを殺気立って見ていた。

 このままだといきなり襲ってきてもおかしくなさそうだ。


「リアは大丈夫ですよ」


 俺は女王陛下やエルフ達からリアを守るように前に立つ。

 するとエルフ達の殺気は変わらないが、女王陛下の視線は和らいだように見えた。


「大丈夫と言われても信用することは出来ません」


 まあそうだよな。それほど親交がないのに信じろと言うのは無理な話だ。

 だがこの時、背後から俺の味方をする者が現れた。


「お母様。リアーナとは一緒に旅をしてきましたが、彼女は信用に足る人物だと思います。ユクトと違って」


 エルミアもリアのことを信頼していたんだな。最後の言葉は余計だけど。ていうか隠れて聞いてたのかよ! てっきりどこかに行ったもんだと思っていたぞ。


「ですが私はこの国の女王として、疑わしき者を見過ごす訳にはいきません。私が判断を間違うことで、何人ものエルフが犠牲になってしまいますから」


 女王陛下がチラリと隷属の首輪をつけられていたエルフ達に視線を送る。

 おそらく人族をこの国に招き入れてしまったことを今でも後悔しているのだろう。

 このままでは女王陛下はリアーナのことを認めないどころか、拘束する可能性もある。

 仲間としてその行為を見過ごすことは出来ない。


「女王陛下のお気持ちはわかります。ですがリアは俺の味方です。信じて下さい」

「いくらエルフ達と娘を救ってくれた恩人でもそれだけはできません」


 国民のことを真摯に思っている女王陛下に好感を持てるが、今は俺の言うことを聞いてほしい。

 やれやれ⋯⋯こうなったらあれを見せるしかないな。


 リアに視線を向けると頷いてくれたので、俺はあることを口にする。


「リアは信頼できるという証明があればいいんですね?」

「そのようなものがあるのですか? ですが余程のものでなければリアーナ王女を信頼することはありませんよ」

「誰もが納得してくれるものがあります。女王陛下⋯⋯俺の左腕を見て下さい」


 そして俺はここにいる全員が注目する中、左腕の服を捲るのであった。





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