第14話 奴隷の姫
「あなたは⋯⋯ユクトですか」
「はい。お久しぶりです女王陛下」
俺は女王陛下の前に膝をつき、頭を下げる。女王陛下とは以前何度かお会いしたことがある。ただダイヤモンド王国が召喚した勇者ということもあり、友好的ではなかった。
「あなたがいるということはエルミアは⋯⋯」
「もちろんいますよ。今はあそこにいます」
こちらに向かってきている魔王軍とエルフ達を指差す。
「そうですか⋯⋯エルミアが魔王軍の中にいたから、戦いが回避されたという訳ですね」
「はい」
「それで⋯⋯あなたの目的はなんですか? まさか魔王軍に組するとは思いませんでしたよ」
女王陛下から冷徹な視線を向けられる。一応味方だった奴が敵である魔王軍にいたんだ。警戒する気持ちはわかる。
それと全く関係ないが、女王陛下のように美しい人から冷たい目で見られると、一部のMの人が喜びそうだな。
俺にはそういう性癖はないけど⋯⋯⋯⋯⋯⋯ほ、本当だぞ。
「女王陛下はどう思われますか?」
「どのような理由があろうと、敵に寝返るのは恥ずべきことだと思います」
まあそうだよな。一般的にはそう考えるのが当然だ。だけど俺は⋯⋯
「お母様!」
「エルミア」
俺と女王陛下の話にエルミアが割って入る。
エルミアが来たことで、俺達の間にあった緊張感がじゃっかん和らいだように感じた。
「よく無事に帰ってきました」
女王陛下がエルミアを優しく抱きしめる。その目からは光るものが見えた。
エメラルド王国で好き放題していた人族と娘を旅に行かせることは、不安でしかなかったであろう。
エルミアが無事戻ってきたことに、心から安堵しているように見えた。
「お母様⋯⋯私もユクトが魔王軍の仲間になった時は、理解出来ませんでした。ですがダイヤモンド王国と手を組むことは本当に正しいことでしょうか? エルフの仲間達を奴隷にし、国を荒らしたダイヤモンド王国こそが本当の敵ではありませんか?」
エルミアが口にした言葉は概ね正しい。そもそも魔族は他国に侵攻した訳でもはなく、逆にダイヤモンド王国が魔王領であるオニキスに侵攻したとのことだ。
そして他国を巻き込んでオニキスに攻め込んだが逆に返り討ちに遭い、領土を大きく減らすことになった。その結果、ダイヤモンド王国が起死回生の手として考えたのが、勇者召喚の儀だったとリアが言っていた。
「ですがユクトもダイヤモンド王国の者達と同じ人族ですよ」
「確かにユクトも人族だけど⋯⋯」
「同じじゃないよ」
城壁の階段からエルミアの言葉を遮る声が聞こえてきた。
視線を向けるとそこには一人の少女がいた。
「「トア!」」
女王陛下とエルミアが少女に駆け寄る。
「あの子は⋯⋯」
どこか二人に似ているな。もしかしてあの少女がエルミアの妹なのか?
「お母様、お姉様!」
少女は走り出すと二人の胸に飛び込んだ。
「トア⋯⋯久しぶりね」
「うん。お姉様にまた会えて凄く嬉しいです」
やはりあの子はエルミアの妹のようだ。それにしてもあのトアという子は⋯⋯
「トア、奴隷の首輪は⋯⋯」
「突然外れたの。だから何かあったと思ってここに」
「「良かった⋯⋯」」
女王陛下とエルミアは、トア王女に首輪がついていないことに安堵し、その場に座り込む。
家族に奴隷の首輪がついているなんて、気が気がじゃないよな。それに主はあのボーゲンだ。いつ理不尽な命令をされるか不安で仕方ない。
ともかく親子の互いを想い合う美しきシーンを邪魔しないように、俺は見守る。
そして数分の時間が経つと、トア王女がこちらへと近づいてきた。
「ユクトさん、お姉様にお話を聞きました。エルフの皆を奴隷から解放してくれてありがとう」
「いや、俺個人もダイヤモンド王国には思う所があってね。気にしないでいいよ」
「それなら⋯⋯以前トアと子犬を守ってくれてありがとう」
「やっぱりあの時の⋯⋯まさか王女様だと思わなかったよ」
初めてエメラルド王国に来た時。
確かあれはまだエルミアと知り合う前だったな。
街の外で、女の子が魔物から子犬を守ろうとしていた場面に出くわしたため、俺は身を呈して二人を助けたのだ。
背中に傷を負わされたが、魔物から二人を助けることが出来た。
「あの時の傷はもう大丈夫?」
「うん。回復魔法で治してもらったから。トア王女と子犬は大丈夫でしたか?」
魔物に襲われたことがトラウマになってなければいいけど。
「私は大丈夫です。でも子犬はあの後、どこかに行ってしまって⋯⋯私の犬じゃないから」
「そうなんだ」
驚いたな。王族なのに見ず知らずの子犬を身を呈して守ろうとしたのか。いや、驚くことじゃないな。
エルミアも普段ツンツンしているけど、優しい心の持ち主だからな。妹のトア王女が優しくてもおかしな話ではない。
何だかこの子に対する好感度が一気に上がったぞ。
「それと私のことはトアでいいよ。私もユクトさんのことをお兄様って呼んでもいい?」
お兄様か。呼び方は違うけどユズのことを思い出すな。
ユズのことを思い出させるこの子の願いを拒否することなど、俺には出来ない。
「いいよ。トアちゃん」
「はい! ユクトお兄様」
トアちゃんは凄く嬉しそうだ。
満面の笑顔というやつだな。
早く俺もユズを助けて笑顔をみたいな。一年前までまさか離れ離れになるなんて思ってもみなかった。
ユズを助けるための歯車はもう動き出している。
俺は改めて自分のやるべきことを再確認するのであった。
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