第10話 悪党はどこにでもいる
◇◇◇
ユクトが魔王の仲間になった一ヶ月後。エメラルド王国城の客間にて。
大きな体躯で腹が出た中年の男が椅子に座り、見目麗しいエルフを横に侍らせていた。
男の名前はボーゲン。ダイヤモンド王国からエメラルド王国を占拠するために派遣された将軍である。
「ここは最高だな。全てが俺の思うがままだ」
ボーゲンは魔王軍からエメラルド王国を守っているということを理由に、やりたい放題していた。
「ダイヤモンド王国には戻らず、ここで一生過ごすとするか」
その台詞を側にいたエルフ達が聞き、訝しげな表情を見せる。
「魔王軍から守ってやっているのに何だその顔は。わかっていると思うが、私の命令一つで千人のエルフが死ぬことを忘れるな。その中にはお前達の大切な姫がいるのだろ?」
ボーゲンは左腕に装着している銀色のブレスレットを見せてきた。
「も、申し訳ありません!」
「何でも言うことを聞きますからそれだけは!」
エルフ達は床に膝をつき、土下座で謝罪し始める。
エルフ達がブレスレットを恐れることには理由がある。これは奴隷に命令が出来る支配の腕輪だ。奴隷にされたエルフ達はこの腕輪と似た隷属の首輪を身につけている。
腕輪を着けている者は主となり、首輪をつけている者は奴隷となる。そのため主であるボーゲンの命令には逆らえず、逆らえば強制的に殺すことも出来るのだ。
ダイヤモンド王国軍が来た時に、千人のエルフが半ば強引に隷属の首輪をつけられてしまい、その中にはエルミアの妹も含まれていた。
そのため、隷属の首輪をつけていないエルフ達もボーゲンに逆らうことが出来ないのだ。
「それなら極上の酒を持ってこい」
「わ、わかりました」
「早くしろ! グズが!」
ボーゲンは苛立ちながら待っていると、エルフの一人が急ぎ酒を持ってきてグラスに注ぐ。
だがボーゲンはこの時何を思ったのか、酒が注がれたグラスを床に落とす。
するとグラスは割れ、酒が床にぶちまけられた。
「申し訳ありません! すぐに新しいグラスをお持ちします!」
完全にボーゲンが悪いのだが、機嫌を損ねると何をしてくるかわからないため、酒を注いでいたエルフは咄嗟に謝罪の言葉を口にする。
「酒が溢れてしまったではないか。この酒は高いのだろ?」
「は、はい」
ボーゲンはにやけた笑みを浮かべながら、エルフに問いかける。
この表情から自分が悪いとは微塵も思っていないように見えた。
「無駄にする訳にはいけないよな?」
「お、仰る通りです」
「それならお前が飲んでいいぞ」
「えっ?」
エルフはボーゲンが何を言っているか意味がわからなかった。
だがこの後のボーゲンの行動と言葉で理解する。
「高い酒がもったいない。猫や犬のように這いつくばって床を舐めろ」
ボーゲンは親指で床を指差し、飲むよう強要してくる。
「そ、そんなこと⋯⋯出来ません」
エルフは震えながら声を絞り出す。しかしその様子はサディストであるボーゲンを喜ばせるだけだった。
「亜人ごときが人間様の命令が聞けないのか? それなら奴隷となった者達に舐めさせるとしよう。もしかしたら地べたを舐める姫の姿が見れるかもしれないな」
「わかりました⋯⋯私が舐めます」
「私が舐めます⋯⋯だと? 極上の酒を飲ませてやるのになんだその態度は」
「⋯⋯わ、私ごときにお酒を振る舞っていただき⋯⋯ありがとうございます」
「そうだ。それでいい」
ボーゲンはエルフが床に膝をつく姿を見て、下卑た笑みを浮かべた。
この世界で多くの人族は、亜人と自分達は同等ではない思っている。しかしこれまでは大きな争いを起こすことはなかったが、ダイヤモンド王国の国王は私欲で魔王領を奪おうと侵略を始めたのだ。
だが魔王軍の予想外の抵抗に遭い、逆に領地を失ってしまった。そしてこのままでは敗北してしまうと考え、起死回生の一手である勇者召喚の儀を行ったのだ。
エルフは涙を流しながら舌を出し、床を舐めようとする。
他のエルフ達も表面上は平静を装っているが、ボーゲンの言動に怒り震えていた。
だけどどれだけ屈辱にまみれようとも、仲間達の命を救うために従うしかなかった。
しかし結果的にエルフが床を舐めることはなかった。
何故ならこの部屋に突如人族の兵士が乱入してきたからだ。
「ボーゲン様大変です! 魔王軍が攻めてきました!」
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この度【狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・】改め【猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る】が、アルファポリス様より1月21日に書籍化されることが決定しました!
これも日頃より読者の皆様が応援して下さったおかげです。
書籍化によりマシロやノア、リズの可愛らしい絵が入り、小説の内容もより素敵なものになっております。
書店等で見かけた時、手に取って頂けると幸いです。
今後とも【猫を拾ったら・・・】をよろしくお願い致します。
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