第11話 絶望のエメラルド王国

「な、なんだと!」


 ボーゲンは兵士の言葉を聞き、怒りの感情を込めながら立ち上がる。


「勇者やリアーナ姫が魔王城へと向かっていたはずだ⋯⋯まさか殺られたのか!」

「わかりません」

「ともかく迎撃の準備だ。貴様も来い!」

「はっ!」


 ボーゲンは性根は腐っていてもダイヤモンド王国の将軍。魔王軍の進撃に直ぐ様対応するため、兵士に防衛の準備を命令する。

 そして一時間後。ボーゲンは街を囲う城壁の上におり、魔王領へと視線を向けていた。

 すると西側から土埃が上がり、魔王軍がこちらに迫ってくるのが見えた。


「ここまで接近を許すとは⋯⋯何故気づかなかった!」

「も、申し訳ありません! エメラルド王国は森林が多く、奴らの存在に気づくことが出来ませんでした」

「弛んどるぞ!」


 ボーゲンは兵士達を叱責する。だが兵士達はボーゲンがエメラルド王国の首都であるグリーンフォレストに来てから、堕落した生活をしていたことを知っているため、その言葉に苛立っていた。


「エルフの女王よ。お前達は魔王軍の進軍に気づかなかったのか?」


 ボーゲンは背後に語りかけると、そこにはエルミアによく似たエルフの姿があった。


「これはボーゲン殿。あなたがこのグリーンフォレストに来られた時、魔王軍の脅威から守ってやる。お前達は余計なことはしなくていい、黙って見ていろと言われた記憶があるのですが」

「くっ! 減らず口を! 」


 ボーゲンは女王を睨み付ける。

 本来ならいち将軍が国家元首を睨み付けるなどあり得ないことだが、ボーゲンの態度で人族とエルフ族が対等でないことがわかる。


「まあいい。ここにはダイヤモンド王国の兵士に加え、エルフの軍と奴隷達がいる。少なくともこちらは魔王軍とは比べ物にならないくらいの兵力がある。まずはエルフ共を戦わせ、魔王軍が弱った所を我らが倒すとしよう」

「なっ! そのようなことは許しませんよ!」

「亜人ごときの許しを乞う必要はない!」


 ボーゲンの命令でエルフ達は城壁の外に配置され、迫り来る魔王軍との戦いが今始まろうとしていた。


「さあ行け! 亜人達よ! 命をとして魔王軍を倒すがいい!」


 ボーゲンの命令で隷属の首輪をつけた千人のエルフ達が進軍を始める。

 そしてエルフの軍も奴隷達だけを行かせる訳にはいかないため後を追う。


「亜人と亜人の殺しあいだ!」

「どっちが勝つか賭けねえか」

「俺は魔族にかけるぜ!」

「俺はエルフは銀貨一枚だ!」


 ダイヤモンド王国の兵士達は、城壁の上から高みの見物を決めており、呑気なことを口にする。

 その光景を見て、一部の兵士達は怪訝な顔をするが、大多数の者はここを戦場だと忘れてしまっているのか、本当に賭け事を始めてしまう。


「止まりなさい! 止まって!」


 女王の悲痛な叫びが周囲に響き渡るが、兵士達が騒がしくてその声は届いていない。


「バカめが! 例え声が届こうが奴隷達はお前の命令は聞かぬ! この亜人どもの王はこの俺だ! この支配の腕輪がある限り例え女王でもそれは覆らぬのだ!」


 ボーゲンは左腕の袖口を捲り、支配の腕輪を見せつけるように高々と拳を天に突き上げる。


「くっ! 卑劣な」

「残念だがこの世に正義などない。あるのは人族による、人族のための世界だけだ!」


 ボーゲンは女王を見下ろし、勝ち誇った表情を浮かべる。

 しかしこの時、ボーゲンの背後で兵士の一人が呟いた。


「残念だけど俺が望む世界では正義が勝つように出来ているんだ」

「なっ!」


 ボーゲンは突如聞こえてきた声を確認するため後ろを振り向くがもう遅い。

 何故なら兵士が剣を一閃し、支配の腕輪を斬り裂いたからだ。






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