第6話 勝者こそ全て正しい
「よくもギゼルの兄貴を!」
グゼルが怒り狂った様子で向かってきた。
だがその行動はガゼルによって静止される。
「冷静になれ! 無闇に突撃すればギゼルの二の舞になるぞ!」
「ガゼルの兄貴⋯⋯」
兄からの言葉にグゼルの足は止まる。
このまま突っ込んでくれば返り討ちにしてやったのに。命拾いしたな。
「どうやらこの男が魔王軍を退けたというのは本当のようだな」
「だがさっきまでこっちが優勢で⋯⋯てめえ! まさか手を抜いていたのか!」
「切り札は隠しておくものだって聞いたことないか?」
「ふざけやがって!」
強化せずに勝てるならそれに越したことはことはなかった。それに強化をすぐに使わなかったことで、ルーシアを魔王の地位から追いやるというデラードの目的がわかったしな。
「ふっふっふ⋯⋯どうやら形勢逆転のようじゃな」
「まだだ! こちらには二人いる! どんな手を使ってもいい。必ず勝て!」
どうやらギゼルがやられたことで、デラードは憤慨しているようだ。
だが俺達に友好的でないなら、二人に勝って奴の魔王軍での発言力を削ぎ落としておくにこしたことはない。
「ガゼルの兄貴。あれを使うぜ」
「いいだろう。デラード様のためにも手段は選んでる暇はない」
二人が意味深なことを言い始めた。これは何かが来ると思っていた方がいいな。
ガゼルが前に、そしてその後ろにグゼルがいる。
ギゼルはいないが、これは先程と同じ様にガゼルが攻撃し、隙が出来た所にグゼルの一撃が来るのか?
「行くぞ!」
「おう!」
ガゼルとグゼルが気合いを入れた声を上げ、こちらに迫ってきた。
ガゼルの剣が頭を目掛けて振り下ろされてきたため、俺は剣で受け止める。すると右側からグゼルが現れ、こちらの胸部目掛けて拳が放たれた。
だが本命はこの拳じゃない。グゼルの狙いはおそらく⋯⋯
俺は前後左右だけではなく、上空も警戒する。
「黒焦げになりやがれ!
グゼルが力強く言葉を発すると、真上から何かが来るのを感じた。どうやらグゼルは約束を破って稲妻の魔法を唱えたようだ。
想像よりデカい稲妻がこちらに向かってくる。だがこのままでは俺だけではなく、ガゼルも稲妻に巻き込まれそうだ。
「お前はこのまま俺と共に魔法を受けるのだ!」
ガゼルは初めから俺の足止め要因だったようだ。攻撃魔法はなしのルールで魔法を使用され、足止めまでされたらかわすことは不可能に近いだろう。
そして激しい光を放った稲妻が落ちた。その威力で地面の石が砕け、土埃が舞い闘技場全体の視界が悪くなる。
「ユクト!」
その状況を見て、エルミアから心配の声が上がった。
グゼルの稲妻はそれほど凄まじい威力を持ち、いくらユクトでもまともに食らえばただではすまないと感じていたからだ。
「ずるいのじゃ! 攻撃魔法は禁止のはずじゃ!」
「戦いにルールなどない! もしルールがあるとしたら、勝った者が正しく、敗者が間違っているだけだ」
デラードは勝利を確信し、下卑た笑みを浮かべる。
「仲間もろとも魔法を放つとは⋯⋯このような戦いは我は認めることができん」
「魔王ともあろうお方が甘いことを⋯⋯だがその心配は無用だ」
「どういうことじゃ」
「ふっ⋯⋯黙って見ているがいい」
デラードは勝ち誇った顔でユクトがいた場所に視線を向ける。
「ユクト⋯⋯」
ルーシアも不安そうにユクトの名前を呟きながら闘技場へと目を向けた。
グゼルの魔法によって現れた土埃が少しずつ晴れていく。
するとうっすらと影が見えてきた。
立っているのは一人しかいないため、二人は地面に倒れていることが予想できる。
そして完全に土埃がなくなり、立っている者の姿が確認された。
すると勝者の姿を見て、デラードから絶叫に近い声が上がるのであった。
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