第7話 決着
「バカな! 奴はグゼルの雷を食らったはずだ!」
俺の足元にはガゼルとグゼルが倒れていた。その姿を見て、デラードは膝から崩れ落ちる。
「何故だ⋯⋯何故⋯⋯」
「何故? わからないのですか? では私が教えて差し上げましょう。ユート様に戦いを挑んだ時点で、あなた方の敗北は決まっていたのです」
リアが大きな胸を反らしながらどや顔をする。
え~と⋯⋯それは理由になってないと思うけど。
「お前には雷が効かないとでもいうのか!」
「いや、さすがにあれを食らったらただじゃ済まないぞ。むしろ効かないのはガゼルとギゼルだろ?」
「なっ!」
そう。あの二人に雷系の耐性があるのだ。
「ど、どうしてわかった⋯⋯」
「ガゼル!」
俺の言葉が聞こえていたのか、重い足取りでガゼルがゆっくりと立ち上がる。
「ガゼルとギゼルの二人は特別なものを装備していたからな。その水色の皮の鎧はライコウガの素材で出来ているんだろ?」
ライコウガとは虎型の魔物だ。常に雷を身に纏っており、稲妻の如く素早いスピードを持っているため、並の腕では狩ることが出来ないと言われている。
「その⋯⋯とおりだ⋯⋯」
「だけどグゼルはライコウガの鎧を着ていない。希少な素材だから手に入らなかったことも考えたけど、もしかしたらグゼルは雷の魔法の使い手じゃないかと。だからライコウガの鎧を着た二人が足止めして、グゼルがとどめを刺すこともあるんじゃないかと思ってね」
雷の魔法は掌から放たれるものと上空から落ちてくるものがある。だけど掌から雷が放たれるとガゼルに当たる可能性も高いため、どちらかというと上空から雷が放たれる確率が高いと考えていた。
そして俺は読み通り向かってきた雷をかわし、ガゼルとグゼルの腹部に一撃を食らわせたという訳だ。
「だが⋯⋯タイミング的には⋯⋯よけれるものではなかった」
「見通しが甘かったな」
もちろん雷をかわせたことに理由はある。
それはブーステッドフィアスのお陰だ。
ブーステッドフィアスはあらゆる能力を二倍にすることができる。それは力だけではなくスピードや反応速度もだ。そのため一時的に常人を越えた能力を持つことが出来た俺にとっては、予想通り迫ってくる雷をよけることなど造作もないことだった。
俺は剣をガゼルに向ける。
「どうする? まだやる? それとも負けを認める?」
立ち上がったということは、まだ戦うつもりなのかもしれない。しかし俺の一撃が効いているのか、立っているのがやっとといったように見えた。
もし向かってくるなら、二度と立ち上がれない一撃を食らわせるだけだ。
俺はガゼルの行動を注視する。するとガゼルは首を横に振るのであった。
「今のお前なら何度やっても勝てそうにない。俺達の負けだ」
意外にもガゼルは素直に敗北を認めた。
主であるデラードを見ていると、何となく最後まで悪足掻きしそうな感じではあったけど、それは気のせいだったようだ。
「何をしている! 敗北など許されんぞ!」
しかし主であるデラードは諦めていないようだ。一人で喚いていた。
「三人で戦って負けるなど⋯⋯私に恥をかかせるつもりか!」
「デラード様⋯⋯申し訳ありません」
「まだだ! この小僧を殺せ!」
「⋯⋯不可能です。悔しいですが実力の差は歴然。何度挑んでも我らが勝つことは出来ないでしょう」
「役立たずが!!」
デラードとは違って、ガゼルは客観的に状況判断が出来るようだ。勝敗は兵家の常というから、百パーセント勝てるわけじゃない。だけどガゼルの言うとおり、何度向かってきても返り討ちにしてやる自信はある。
「勝負ありでオッケーじゃな。デラードよ⋯⋯約束通り、今後我とユートに逆らうことは許さんぞ」
「くっ! 行くぞ!」
デラードは不機嫌なことを隠さずに、闘技場から立ち去っていった。
そしてガゼルも気絶しているギゼルとグゼルを担ぎ上げ、こちらに背を向ける。
「人間を仲間にすると聞いた時は怒りで気が狂いそうになったが、今ではお前が仲間で良かったと思っている。命のやり取りをしなくて済むからな」
ガゼルは去り際にそう呟くと、デラードの後を追う。
敵だった者に認めてもらえたなら、決闘をしたかいがあったな。けどギゼルはともかく、グゼルはまた噛みついて来そうだ。
まあそれはまた会った時に考えればいいか。
「ユクト様~」
決闘が終わり闘技場を降りようとした時、リアが駆け寄ってきた。
「さすがはユクト様です! 相手を寄せ付けぬ戦い方はまさに勇者として相応しい⋯⋯いえ、勇者を越えた存在と言っても過言ではないでしょう」
「はは⋯⋯ありがとう」
リアは俺の両手を握り、上目遣いで見つめてきた。
相変わらずリアの俺への肯定感がすごい。
本当はそんなことないよと言いたい所だけど、以前謙遜したら俺の素晴らしさを永遠と語られたので、ここは否定しないでおく。
そしてリアの背後からルーシアもこちらへと向かってきた。
「ユクトよ。そなたは我らの仲間に相応しい力を見せた。これからもよろしく頼むぞ」
「ああ⋯⋯こちらこそよろしく頼む」
俺は右手を差し出して、ルーシアと握手を交わした。
こうして俺は、人族と仲間になることに反対していたデラードを力ずくで黙らせることに成功するのであった。
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