第4話 戦うことがわかり合うのに一番手っ取り早い

「あれが勇者か」

「だが私達の仲間になったようです」

「冗談だろ」


 二本の角と灰色の肌を持つ魔族が鋭い視線を向けてきた。

 三人は見た目がそっくりだな。兄弟なのだろうか。

 ん? だが二人は水色の皮で出来た鎧を装備しているが、一人は武道着を着ている。

 何故かわからないが、俺はこの時一人だけ鎧を装備していないことが気になった。


「ガゼル、ギゼル、グゼル⋯⋯お前達兄弟はこれからこの勇者と戦ってもらう」


 やはり思った通りこの三人は兄弟で、これから俺が戦う相手でもあるようだ。


「承知しました。ギゼル、グゼル準備しろ」

「まさか勇者と戦うことになるとは。グゼル、油断は禁物ですよ」

「へっ! わかってる! 腕がなるぜ!」


 どうやら威圧感があるのがガゼルで、表情を変えず冷静なのがギゼル、口調が乱暴なのがグゼルのようだ。そして皮の鎧を装備しているのがガゼルとギゼルで、武道着を着ているのがグゼルとわかった。


「三人は魔王軍でもトップクラスの実力者だ。特に接近戦に関しては右に出る者はいない。お前も勇者と呼ばれているくらいだ。三人に勝利する自信があるのだろ?」

「まあね。少なくともこの三人に負けるつもりはないよ」

「ほう」


 俺の挑発に三兄弟がジロリと睨んでくる。

 予想通り癇に触ったようだ。


「ならば戦いの最中は攻撃魔法は禁止で、武器と素手による攻撃のみとするが問題ないか?」


 さっき接近戦が得意と言っていたので、自分達が有利なルールにしたいのだろう。

 本来なら自分が不利になる条件など、受ける必要はない。

 だがそれはこちらも望む所だ。

 この状況で勝ってこそ実力が認められ、二度と俺がやることに異議を唱えることが出来なくなるはずだ。


「いいですよ」


 観客席に大勢の魔族が集まってきた。

 この観衆の中で人族を叩きのめしてやりという気持ちが、デラードからひしひしと伝わってくる。


「では誰と戦うか、対戦相手を選ぶかいい」


 誰と戦うべきか。それは最初から決まっていた。


「誰と戦おうが同じだ! 人間ごときが俺達に勝てると思っているのか!」


 好戦的なグゼルが怒りを露にしてきた。

 だが俺の言葉を聞いたら、さらに怒り狂うのは間違いないだろう。

 俺は意を決して宣言する。


「一人一人戦うのは面倒です。三人まとめて相手をしましょう」


 俺の宣言にこの場が凍りつき、デラード達は殺気を向けてきた。

 人族に上から目線で答えられのだ。当然の行為だな。


「おもしれえことを言うじゃねえか。敗北した後に文句を言うんじゃねえぞ!」

「大丈夫。そんな見苦しい真似はしないよ」


 勝ち気なグゼルは特に殺意が凄いな。試合が始まる前に襲いかかってくるかと思ったぞ。

 まあその時は返り討ちにしてやるだけだ。


「ユ、ユクトよ! お主とんでもないことをしてくれたな!」


 背後からルーシアが慌てた様子で話しかけてきた。

 見た目は全身鎧と兜で隠しているし、魔王という立場なので冷静沈着かと思っていた。しかし俺が仲間になるって言った時もすごく驚いていたし、こう見えてルーシアは感情表現が豊かなのかしれないな。


「あの三人の実力は本物じゃ。今からでも一人ずつ戦うようにした方がいい」


 もし敗北すればルーシアも叩かれるかもしれない。だから心配する気持ちはわかるけど。


「ルーシア様ご安心下さい。ユクト様は必ず勝ちます」


 リアが自信満々の表情で魔王の肩に手を置く。

 相変わらずリアーナからの信頼が重い。だけどそのおかげでルーシアの心情に変化があったようだ。


「わかった。お主達を信じよう⋯⋯じゃが無理はするなよ」

「ああ。それは約束するよ」


 勝つべき所ではあるが、命をかける場ではない。

 俺の命にかえてもユズは元の世界に帰してみせると決めたんだ。ユズを助けるまで俺は死ぬわけには行かない。


「ユクト様」

「いや、ここは大丈夫だ」


 リアは使聞いてきたのだ。

 だけどこの戦いで俺達の切り札を見せる必要はないと判断し、口にする前に制した。

 そして腰に差した剣を抜き、闘技場へと上がる。

 すると三人は既に武器を手に持ち、臨戦態勢に入っていた。

 ガゼルは剣、ギゼルは槍、グゼルはナックルか。

 それぞれ間合いが違う武器とは少し厄介だな。


「我ら兄弟の力を見せてやる」

「いつも通り戦えば高確率で勝てるでしょう」

「そのつらに一発食らわせてやるから覚悟しやがれ!」


 挑発したこともあり、三人はやる気満々のようだ。

 人族には絶対に負けたくないということもわかる。

 だが俺も負ける訳にはいかない。

 俺の目的のためにも絶対に勝つ!


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