第3話 そう簡単に仲間になれる訳がない
「エメラルド王国を攻める!? そんなことこの私が許すと思っているの!」
「思っているさ。エルフ達は人族から酷い仕打ちを受けているのは知っているよな?」
「そ、それは⋯⋯そうだけど⋯⋯」
「もしルーシアを倒したとしても、人族のエルフに対する態度は変わらないぞ。いや、邪魔な魔王軍がいなくなるからもっと好き勝手にやるかもしれないな」
たぶんダイヤモンド王国の国王は、魔王を倒したら他の亜人達の領地を狙って進軍を始めるだろう。
「まずはエメラルド王国に巣食う人族を追い出す。そのためにはエルミアが必要だ。俺に力を貸してくれ」
「⋯⋯わかったわ。でも私の仲間に危害を加えるなら」
「その時は俺を後ろから射てばいい」
「私の矢が常にあなたを狙っていることを忘れないでね」
エルミアはルーシアから渡された腕輪をつける。
どうやら魔王の仲間になる覚悟を決めたようだ。
「それとルーシア。エメラルド王国を攻めるための軍勢を借りたいんだが」
「わかった。それは我が用意しよう」
エメラルド王国から人族を追い出す策は既に考えてある。魔族の軍がいれば成功する確率が上がるため、ルーシアが願いを聞いてくれて助かった。
だがこの時、ルーシアの言葉に異を唱える声が聞こえた。
「人族に力を貸すなど、魔王とは思えぬ言葉だな」
突然声が聞こえると玉座の間の扉が開き、褐色の肌を持つ一人の魔族が入ってきた。
「お前はデラード⋯⋯我の決定に不服を申すつもりか」
「当然だ。敵である勇者や聖女に何故力を貸さねばならないのだ」
この魔族と直接戦ったことはないけど見たことはある。確か魔王軍のナンバー2の男だ。
そしてこの時、デラードの背後からもう一人気配を感じた。
「無礼者! ルーシア様の御命令に逆らうなど許されぬことだぞ!」
「おお!ジルベルトよ! 生きておったか」
この熟年の魔族は知っている。
玉座の間へ向かう際に戦った魔族だ。
その戦いぶりは正々堂々としたもので、とどめを刺すことを躊躇ってしまった相手だ。
「ルーシア様⋯⋯申し訳ありません。生き恥をさらしてしまいました」
「よい。そなたが無事で何よりだ」
「ありがたきお言葉です」
ルーシアの表情はわからないが、声を聞く限りジルベルトが生きていてとても安堵しているように思えた。
「ふっ⋯⋯戦いに敗れ、敵に見逃されるなど屈辱以外の何物でもない。魔王軍ナンバー3とは思えんな」
「戦うことすらしなかった者に言われたくない台詞だな」
二人の間に火花が飛び散る。
どうやら同じ魔王軍でも二人は仲が悪いようだ。
そういえばデラードとはこの魔王城で遭わなかったな。どこか別の場所でも守っていたのだろうか。
「ともかく俺は人族を仲間に入れることは反対だ。大方ルーシア様と戦うことを怖れた腰抜けだろ? 魔王軍にいても役に立つかどうか」
「ユクト様への無礼は許せません。そしてご自分の目がいかに曇っているか後で理解しても遅いですよ」
リアーナはデラードに対して冷徹な言葉を投げ掛けた。
普段はおっとりとしてふわふわしている性格だが、リアーナは俺に対して⋯⋯いや、たぶん勇者に対して妄信的な所がある。
そのため勇者を蔑む者に対しては容赦ない。
「ではその実力とやらを見せてもらおうか」
「承知しました」
俺の意思は関係なく、実力を見せることが決まってしまった。
だけど早めに信頼を得た方が、後々のことを考えるといいかもしれない。
「わかった。それでは何故俺が勇者と呼ばれているか、その力の一端を見せてやる」
「それは楽しみだな。貴様と戦う者を用意すればいいのか?」
「そうだな」
「わかった。ではついてこい」
デラードは玉座の間から出ていったので、俺達は後に続く。
しばらく歩くと広々とした空間に出た。おそらくここは闘技場のような場所なのだろう。
そして闘技場の中心には、三人の魔族の姿が見えた。
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