第2話 まずはエルフの国だ
「「えぇぇぇぇっ!」」
玉座の間に驚きの声が上がった。
エルミアならともかく、魔王も俺の返答は予想外だったようだ。
「ちょっとユクト! あなた何のために戦ってきたの! 魔王を倒すためじゃなかったの!」
エルミアは両手で俺の肩を前後に揺すり、信じられないといった表情を浮かべていた。
俺が魔王の仲間になるとは微塵も思っていなかったのだろう。
「エルフにとっては今やダイヤモンド王国の方が憎むべき存在じゃないのか」
「確かにそうだけど⋯⋯でも⋯⋯」
育ちが良いエルミアは、裏切ることに抵抗があるのかもしれないな。
「か、賢い選択じゃな。今からそなたらは我の仲間だ」
「よろしく頼む」
俺は魔王へと近づき、握手をかわす。
「では我が配下達が敵ではないとわかるようにこれを授けよう」
魔王が手をかざすと四つの腕輪が現れ、宙に浮いて俺達の前で止まった。
「この腕輪は我の客人の証じゃ。もしそなたらに手を出せば、我に逆らうことになる」
なるほど。便利なアイテムだな。仲間になったのはいいが背後から攻撃されたらたまったもんじゃないからな。
俺は目の前に浮いている腕輪に手を伸ばす。そして左腕には既に
しかしその行動に待ったをかける人物がいた。
「ふざけんな! どういつもりだユクト!」
ディガルドは俺の胸ぐらを掴んできた。
怒りで今にも手が出てきそうだな。
「ディガルド⋯⋯俺の決めたことに文句があるのか?」
「あるに決まってるだろうが! よりによって魔王の仲間になるだと! そんなことが許されると思っているのか!」
「許されるか⋯⋯だと⋯⋯俺は許されると思っているけどな」
俺にはダイヤモンド王国を恨む理由がある。
そう⋯⋯あれは一年前。
その時ダイヤモンド王国の国王にユズが捕えられてしまったのだ。そして国王は俺にある要求をしてきた。
ユズを返して欲しければ魔王と戦えと。
捕えられたユズの居場所もわからなかったので、俺はその命令に逆らうことは出来なかった。
正直初めは、国王を人質に取ってでもユズを探しに行こうと思っていた。
だけど国王の娘であるリアーナ――リアが、ユズの居場所を探すことに協力してくれたこともあり、俺は断腸の思いで国王の命令に従ったのだ。
「お前⋯⋯ユズちゃんのことはいいのかよ!」
「もし魔王を倒したとしても、国王がおとなしくユズを返してくれるかわからないしな。だったらこれまでの恨みを晴らすために魔王の仲間になるのも一興だ」
俺は胸ぐらを掴んでいたディガルドの手を払い答える。
「リアーナ姫! 姫からも何か言ってやってくれ! このままだとユクトは本当に魔王の仲間になっちまうぞ!」
「⋯⋯私はユクト様に従います」
リアはそう宣言すると、魔王から送られた腕輪を手に取る。
「お父様の命令とはいえ、ユクト様をエンド・アースに召喚してしまったのは私ですから。世界が敵になろうと、私はユクト様に着いていきます」
リアらしい言葉だ。
最初は捕えられたユズのことを探すと言われた時は、国王の娘が何を言ってるんだ。どうせ俺が命令に従っているか確認するためだろと疑っていた。
だかリアはある物をつけることで、俺の信用を得たのだ。
「リアーナ姫⋯⋯残念だが俺はあんた達にはついていけない」
「強制するつもりはありません」
「どうなっても知らねえぞ」
ディガルドは俺達に背を向けて、玉座の間から走り去っていく。
「あの男を始末するか?」
「いや、一応仲間だった奴だ。せめて魔王城からは逃がしてやってくれないか」
「わかった。配下の者達にも伝えよう」
「だが俺は魔王の仲間になると決めたんだ。もしディガルドが俺達の前に立ち塞がるならその時は容赦しない」
俺は去っていくディガルドの背中を見ながら、改めてダイヤモンド王国と決別することを決める。
そしてもう一人、エルミアはうつむき動かない。どうするか迷っているのだろう。
「さて、去っていく奴のことより、具体的な話をしたいんだが」
「どういうことじゃ?」
「世界の半分をくれると言ったけど、この魔王領⋯⋯オニキスの東側をくれないか」
既に世界の七十五パーセントは魔王の物になっている。
そしてこの魔王城はオニキスの西側にあり、東側は人族やエルフ族の国に面していた。
「約束じゃからな。そなたの言う通りにしよう」
「これから奪った領地は俺の物で、領地内の法律も俺が決めるってことでいいか?」
「魔族を迫害するものでなければ認めよう」
「では早速領内の魔族を集めて戦いの準備をするとしよう」
「た、戦いだと! どこを攻めるつもりじゃ!」
魔王――ルーシアは俺の言葉に驚きを隠せない。
ついさっきまで味方だった国を攻め込むとは思っていなかったのだろう。
「まずはエルフの国⋯⋯エメラルド王国だ!」
「なんですって!」
俺の宣言が予想外だったのか、先程まで沈黙していたエルミアが声を上げ、こちらを睨み付けてくるのであった。
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