異世界転移勇者は魔王に仲間になれば世界の半分をやると言われたので、ありがたくもらうことにしました

マーラッシュ【書籍化作品あり】

第1話 世界の半分を授けよう

 ここは魔王城の最深部。

 目の前には人の数倍はある大きな扉が待ち構えていた。


「とうとうここまできたか」


 俺――こと天城ユクトはこれまでの旅を思い出し、思わず呟いてしまう。

 時間にして一年⋯⋯俺にとっては地獄のような長い時間だった。

 突然日本からこの世界⋯⋯エンド・アースに召喚され、ダイヤモンド王国の国王に魔王を討伐しろと命令された。

 召喚された者は勇者として特別なスキルを持ち、魔王や魔族と戦うのに都合がいいらしい。

 最初は戸惑いもしたけど、日本で剣術をしていたこともあり戦うことが出来た。しかし敵は魔族だけではなかった。

 エルフ族やドワーフ族など亜人と呼ばれている者達との戦いを強要されたのだ。盗賊などの悪党だけならともかく、悪いことを何もしていない者との戦いは精神的に辛かった。

 だが俺はそのような状況でも戦わなくてはならない理由があったのだ。


「ここで魔王を倒せば俺達は英雄だぜ。王国に戻れば間違いなくモテ期到来だろ」


 背後から軽い口調で語っているのは、元近衛兵で盾役を担っているディガルドだ。

 優秀な奴ではあるが三度の飯より女性が好きで、この旅でも何度ハニートラップに引っかかったか。

 そして盾役の癖に、男は守らないという最悪な奴でもある。


「油断してはダメですよ。それに魔王を倒した後も私達にはやらなければならないことがたくさんありますから。平和な世界を作るために頑張りましょう」


 ディガルドを窘めているのは、ダイヤモンド王国の王女でありディガルドの主でもあるリアーナ・フォン・ダイヤモンドだ。

 聖女という特殊な称号を持ち、俺を異世界から召喚した人物でもある。

 穏やかで優しい性格をしており、分け隔てなく人や亜人と接するため、民からの人気は高い。

 俺が日本と比べて過酷な異世界で過ごしてこれたのは、リアーナが色々世話をやいてくれたからだ。


「わかってる。姫は大船に乗ったつもりでどーんと構えていてくれ」


 それが泥船じゃなきゃいいけどな。

 ディガルドは腕は確かだけど言葉が軽くて、いまいち安心出来ない。


「ふん」


 そして二人の背後には、面白くなさそうにこちらを見ているエルフがいた。だがエルフと言ってもただのエルフではない。エメラルド王国の王女という高貴な血を持つ、エルミア・ウィル・テスラ・エメラルドだ。

 彼女が不機嫌なのは理由がある。

 元々エルフは魔王軍との戦いに参加をする気はなかった。しかし人族から戦わなければ魔王軍の仲間と見なすと言われたのだ。

 そして苦渋の決断でこの戦いに参加することを決めたが、人族は協力関係であることを理由に、エメラルド王国に軍を派遣した。だが表向きは魔王軍から守るためと言ってるが、実際は王国を占拠してエルフ達を自分達の統治下に置いているのだ。

 そのような状況をエルミアが面白いと思うはずがない。


「エルミア、この扉の奥におそらく魔王がいる。油断せずに行こう」

「余計なお世話。人族の言うことなんて信用できないわ」

「俺達はここまで旅をした仲間じゃないか」

「仲間? あんた達との関係なんて、魔王を倒したら終わりだから」


 取りつく島もないな。まあその気持ちはわかるからこれ以上余計なことを言うのは止めよう。


「それじゃあ行くぞ」


 俺とディガルドは目の前の扉を開く。

 すると中の様子を確認することが出来た。

 部屋には階段があり、昇った先には重厚な椅子がある。

 そして椅子には全身黒色の兜と鎧に包まれた者が座っていた。


「ここは玉座の間ということか」

「やっとここまでたどり着くことが出来ました」

「あれが魔王か」

「⋯⋯私はここで負けるわけにはいかない」


 皆の緊張が伝わってくる。

 さすがは魔王と言うべきか、ただここにいるだけでプレッシャーが俺達を襲い、一瞬でも気を抜けば意識を失ってしまいそうだ。


「人間とエルフよ。よくここまで来たな」


 魔王が俺達に語りかけてくる。

 だがその声を聞いて俺は驚いた。

 魔王というからには百戦錬磨の猛者で男性のイメージがあったが、この声はどう考えても女性の声に聞こえる。


「我の名はルーシア。まさか我が精鋭達を乗り越えて玉座の間にたどり着くとは、褒めてやろう。その力をここで散らしてしまうのは惜しい。もし私の仲間になれば世界の半分をやろう。どうじゃ? 我の仲間になるか?」


 どこかで聞いたことがある台詞を口にしてきた。


「そんな話、聞ける訳ないじゃない!」


 エルミアが魔王に対して言い放つ。勇者として答えるならもちろんノーだろう。だが俺は⋯⋯


「わかった。お前の仲間になろう」


 イエスの返答をするのであった。

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