02_04_風紀委員長に、見せてあげてもいいですか?

「ええっ!? 違反者って、私のことだったんですか!?」


 そんな、私がいったい何を……

 はっ!

 そうです、私は、性別を偽って入学してるじゃありませんか!


「あの、えっと、これには、訳が――」


 ありません。

 お嬢様のワガママです。

 なんの釈明もできません。

 私の学園生活は、入学1日目にして詰みました。


「校則は周知されているはずだ! 『本学の生徒は専用制服の常時着用を義務とする』。公爵家のメイドだからといって、例外は認めん!」


 ……あれぇ?


「ただちに指定の制服を着用してもらう。それとも、何か決まりに従えない合理的な理由があるならば、それを述べてみせろ!」


 あ、良かった。

 服装のことだったんですね。

 いいえ、良くありません。

 お嬢様、このメイド服で大丈夫だって言ってたじゃないですか。


「あら、校則にはこうもあるわよ。『本学の生徒に帯同する従者は、それに相応ふさわしい服装の常時着用を義務とする』って。エレンは学園の生徒であり、同時にアタシの従者ですもの」


 つまり、メイドであればお仕着せのメイド服、執事であれば執事服を着なければならないルールです。

 お嬢様は、ニヤリと口角を釣り上げました。


「どちらの校則が優先されるだなんて、そんな校則は存在しないわ」


 そういえば、おっしゃってましたっけ。

 『校則の穴を突いた』って。


 ディラン先輩も、これには苦虫を噛み潰したような顔になりました。


「くっ……だが、授業は制服で受けるのが、常識的にも伝統的にも筋合いだ」

「いいじゃないそんなの。こんなに可愛いんだから」


 言うと、お嬢様は私のスカートの裾を掴み、素早くペラっとめくり上げ――


「って、きゃあ!」

「うおわぁっ!?」


 思わず悲鳴を上げながら、私は慌ててスカートを押さえました。

 目の前では、ディラン先輩も驚いて声を上げています。


(み、見られ……あ、でも)


 スカートをめくり上げたといっても、今回はほんの数センチほど。

 せいぜい膝上ひざうえの、もものあたりが露出したくらいです。

 すぐに押さえたこともあって、誰の目にも……いえ、真正面にいたディラン先輩にはしっかり見えていたでしょうか。

 ともあれ、お嬢様にしてはやけに控えめなセクハラです。


「ミ、ミゼリア! 貴様、自分の従者になんという仕打ちだ!」


 ですが、ディラン先輩は真っ赤になって、私の足から顔を背けて憤慨ふんがいしました。


「あ、ディラン。アンタ、エレンの生足おがんだわね?」

「み、見ていない!」

「いいわよ見ても。ね、エレン」

「よ、よくありませ――」

「代わりに見逃してもらえるんだから」


 お嬢様の悪魔の提案が、場を一瞬で凍らせました。


「おま、な、なにを言って――」


 ディラン先輩が、いきどおりを通り越して混乱しています。

 私も正直、軽いパニックにおちいりました。

 で、でも、足くらいで丸く収まるのなら、太ももくらいなら、別に――


「えと、その……ご覧に、なられ、ます、か?」


 羞恥しゅうちをこらえながら、スカートのすそを少しだけつまむと、


「ま、真に受けるな! この俺が、そんな不埒ふらちな取引に乗ると思うのか!」


 ディラン先輩はますますお顔を真っ赤に染めて、断固拒否の姿勢を貫きます。

 お嬢様ではありませんが、確かにディラン先輩、免疫めんえきが無さそうです。


(本当は男の子の足で申し訳ありませんが、ここはひとつ、先輩の純情さを利用させていただいちゃおうかな……なんて)


 公爵家のメイドたる者、知謀策謀にも優れていなければなりません。

 こんな男の子の太ももくらい……やっぱりとっても恥ずかしいですけど、でも、これでお嬢様が校則違反者にならずに済むのなら――


「こらこらミゼリア、悪ふざけはほどほどにね。君にとっては遊びでも、エレンを巻き込んだら可哀想だろう?」


 と、ここでハークス皇子殿下が、助け舟を出してくださいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る